販売員だって恋します
大藤は、そのさらりとした髪を撫でる。
「由佳……」

ふと触れた由佳の肩が冷たくて、それでぴったりくっついていたのだなと笑みが零れて、布団を肩に差し掛けた。

そして由佳が起きないように、そうっと、けれども全身で由佳を抱きしめる。

その温かさと柔らかさと確かな存在感は、幸せを形にしたようだ。

こんなにも、今日また改めて愛おしさを感じるのには理由があることを、大藤は分かっていた。

おそらく由佳は、自分では自覚していないことだ。
「大事にします……」
そう言った大藤は由佳の額に唇を押し付けたのだ。

あの時、由佳は真っ先に大藤を探した。

今日の話し合いの時間は『くすだ』の数百年の歴史の中で、なされてこなかったことだろう。
これまで必要もなかったような話し合いがされたはずなのだ。

時代は変わる。

大藤は百貨店がホールディングス化されたのを目の前で見た。
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