販売員だって恋します
大藤には食事を楽しんでいていい、と言われたので気楽なものだった。

それにしても……。

大藤の食事の仕方は格段に綺麗だ。
カトラリーもほとんど音を立てないし、ナイフとフォークにも慣れている。

エスコートも完璧だし、スマートな見た目。

その瞬間
『遊びはしていないですよ。本気ではなかっただけ。』
そう言った、あの時のひんやりとした空気が脳裏に浮かぶ。

「お二人はどちらで、お知り合いに?」
「職場が同じなんです。」
淡々と大藤が答えた。

「ああ、デパート……」
「ええ。彼女の上司が私の上司と知り合いでして」

大藤はすました顔でそんなことを言った。
この人本当に悪い人だ。
こんな虫も殺しません、みたいな顔をして平然と嘘をつく。

適当に誤魔化しておけばいい、と言われた由佳はにっこり笑う。

初耳ですけど。
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