販売員だって恋します
こんな時でも、動揺を顔に現さないところは由佳に似ている。
いや、由佳がこの人に似ているのか。

「後で、お店の外で」
そう、大藤に向かって囁いて、
「ありがとうございます。」
と柔らかい笑顔を向けてくる。

──この兄妹は……。
カードで支払いを済ませると、店の外で「大藤さん」と声を掛けられた。

カードで名前をチェックしたのだろうと思うし、またそれが分かるよう、敢えて出したものだ。

「楠田絋さん、ですね。」
こくり、と絋は頷く。

「ここでは絋、とだけ名乗っているんです。あなたはどなたですか?『くすだ』の人?」
首を傾げるその様子は、先程までのどこか澄ましたような雰囲気とは全く違う。

これが恐らく絋の本来の姿なのだろう、と大藤は思った。

「いいえ。由佳さんの知り合いです」
「由佳ちゃんの……。由佳ちゃん、元気ですか?」
< 184 / 267 >

この作品をシェア

pagetop