販売員だって恋します
「お元気ですよ」
「良かった……」
笑顔になる絋は、やはり由佳の兄なのだと感じる。

ならば尚更……。
「なぜ、由佳さんにも隠しているんです?」

「僕はもう『くすだ』とは関わりのない人間ですから」
絋は、きりっと大藤を見つめてきた。

「けど、こうして配膳のお仕事をされている。やはり飲食から離れられないのではないんですか?」
大藤が言うと、絋は顔を伏せて悔しそうな表情をする。
そんな絋は、年相応に見えた。

「確かにおっしゃる通りです。けど、僕はこれ以外知らない。この道でしか、食べていくことはできないんです。」
「そういう意味では、『くすだ』は頂点ではないんですか?」

「はい。間違いないです。でも、僕は頂点にいる資格はありません。それに、頂点でなくても、皆さんに食を楽しんで頂くことはできる。父にしてみれば、このようなお店は裾野の一角でしかないでしょう。しかも創作和食。おそらく外道の極みだと思うんじゃないかな」

「素晴らしいお料理だと思いましたけどね」
大藤の素直な感想だ。
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