販売員だって恋します
17.いつかにはない景色
いつかのストックルームで、由佳は目の前の男性を強く睨んでいた。

「っ、ひどいですっ……」

眼鏡をポケットから出して、かけ直したその男性は、にっこりと由佳に笑いかける。
「何がですか?」

先程までの乱れなんて感じさせないくらい、ぴしっとした、スーツ姿。

悔しいけれど、スマート過ぎる。
由佳を抱きかかえた大藤は、耳元で低く囁いた。

「続きは今夜……ですね。」



この日、ランチを食べ終わり、店員用の階段を降りて、社員用の喫茶に向かっていた由佳と、奏である。

「あ、楠田さん……。」
階段の途中で、偶然大藤と、すれ違う。

会社だし、周りに人もいるので、よそよそしさは否めないが、それでも、大藤の相変わらずの隙のなさには、つい、見惚れてしまう由佳だ。

スラリとしていて、シワひとつない隙のないスーツ姿、綺麗に整えられた髪、綺麗な立ち姿。
柔らかい笑みさえ、計算されているものだと知っていても、ドキン、とする。
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