販売員だって恋します
「いらっしゃいませ。」
事前に予約を入れていたので、絋には大藤、と分かっていたはずだ。

絋は笑顔で二人を出迎えた。
あの『くすだ』でのやり取りから1ヶ月ほどが経過している。

由佳の普段の生活は、大きな変化はない。
いつも通り『ブレア』に出勤し、仕事をしている。

大藤も通常通りの生活に戻っていた。
秘書としての。

そんな中大藤に誘われ、絋の店と知らずに、いいお店があるんですとこの店に連れてこられたのだ。

「お兄さんのお店だったんですね。」
「そう。由佳ちゃんは、今日はお客様だからね。大藤さん、いろいろありがとうございました。」
にこり、と笑った絋が大藤に頭を下げる。

相変わらずの品の良い和装と、柔らかい笑顔が店の雰囲気を良くしている。
「その後いかがですか?」

「彼は……。」
と絋はカウンターの中のシェフを見る。

彼は緩く、大藤に頭を下げた。
愛想はない。けれど、大藤に対する敬意を感じた。
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