販売員だって恋します
「いえ……。お兄さんは小さい頃からお店に出て、接客していましたけど、私はそうでもなくて。私は板場への出入りも許されていませんでしたし。」

「なるほど。やはり、厳しい世界なんですねぇ。」
「そうですね。特に父はそういうのには厳しかったと思いますよ。」

「そうか…。」
それならばなおさら、よくあの亭主が絋を受け入れたものだと大藤は思う。

時代の流れを誰よりも感じているのは、あの亭主なのかもしれない。
そう思って、少しだけ複雑な気持ちになった大藤だった。

「そうだ由佳、パスポートは持っていますか?」
「パスポート?!ありますけど。」

少し前に社員旅行で海外に行った時に取ったものだ。

「翔馬さんが、奏さんとの結婚式をサプライズでしたいと言うんですよね。サイパンなんですけどね。」

「サプライズ?!で、結婚式?!」
「帰国したら、こちらでそれなりの披露宴はして頂きますけれど、プロポーズして婚約はされたのですが、翔馬さんがすぐにでも入籍して式を挙げたいそうなんです。」
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