販売員だって恋します
「奏先輩、お仕事辞めちゃうんですか?」

奏の嫁ぎ先である成田家は、今由佳と末森が勤めているそのデパートの創業者一族なのである。

恐らく仕事などはしなくても、暮らしていけるような家のはずなのだ。

「続けるんですって。この仕事が好きだし、仕事は辞めたくないって言っていたわよ。成田さんもお父様はご健在だしね、すぐに役員という訳ではないようだから。面白いわね、あの2人。」

由佳も成田翔馬のことは、少しだけ見たことがある。由佳の成田に対するイメージは、クールでスマートな人という感じだ。

仕事なんて辞めていい、とか言いそうなのだが。
「成田さん、奏先輩のお仕事には理解ある、ってことなんでしょうか。」

「あると思いますよ。」
上から降ってきた声に、由佳はどきんとする。

通路には大藤が、にこやかに笑いながら立っていたから。
「ひさ……大藤さん……。」

「翔馬さんは、奏さんのお仕事している姿に惚れ込んだそうですから、彼女のやりがいでもあるお仕事を奪うようなことはしないと思いますよ。」
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