販売員だって恋します
「到着したら、準備もあるのでお手伝い頂けると助かります。」
「分かりました。それにしてもサイパンって、近そうなのに乗り継ぎがあるのがめんどくさいわね。」

その時、末森に見えないところで、すうっと大藤の指が由佳の頬を撫でた。

由佳はどきん、とする。

「昔は直行便があったんですよ。」
「そうよねぇ。」

「乗り継ぎなんかにしたら、日本人はますます行かないでしょうね。実際成田家でもこのようにコンドミニアムを手放してしまう訳だし。」

最初は気のせいかと思ったけれど、すり……と意図を持って、触れてくる指はわざとだろう。

由佳は身体を固くして、動けなくなる。

どきん、どきん、と鼓動が高くなって身動き出来ない。

なんでもないように、末森と大藤が喋っているから尚更だ。

久信さん……絶対わざとだもん。人をドキドキさせて楽しんでる!

「どこか、面白いところはあります?」
末森の質問に大藤は、少し考えるようにする。
けれど、その間もするりと由佳の耳元を撫でたりとかして。
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