販売員だって恋します
最初はその綺麗な顔と、一分の隙もないスーツ姿に惹かれた。
今日一緒にいて、きれいな姿勢や食事の仕方や、相手の話を聞く時の目を伏せる様子とか、眼鏡を上げる時のすらっとした指に、目がつい吸い寄せらせて。

くっと口元を引き上げて笑うのも、自然に笑った時の目尻のシワも……どうしたって由佳の目を奪う。
絶対に、絶対に好きになっちゃいけない人。

けど……無理……。

だって、心の中でこれだけ思い浮かぶってことは、もう好きだから。
けれど、それを知られてはいけない。

好きって言って、あの冷たい瞳で興味ないですねと言われたら、きっと立ち直れないから。

「本当に?由佳……?」
本当?本当って……。
考え事をしていた由佳は、はっとする。

気づけば耳から肩を通って、背中に触れた大藤の指が、そっと由佳の背を押し大藤に抱き寄せられていたのだ。

香水の青っぽい爽やかな、けれど大藤らしいやや官能的な香りに、由佳はくらっとした。

お願いだから、やめて……無理。抵抗なんて、できない……から……。
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