販売員だって恋します
「もとは楠田は母の実家でもあります。父は婿養子なんです。先代に惚れ込まれて跡を継いだと聞いています。けれど母は箱入りです。世間知らずすぎる。以前にも、それで詐欺まがいの目に遭っているんです。」

絋に説明されて大藤は由佳を見る。
由佳はゆっくり頷き、それを否定する言葉が出てこないと言うことは、事実なのだろうと思われた。

「俺がいてよかったというのは……?」
「冷静に判断できる人にいていただきたいんです。それに何かあっても、あなたなら動いていただける。大藤さんの判断を、僕は信用しています。」

確かに、知らないふりをするようなことはないだろう。

そこに思い至って、由佳は助手席にいた兄に声をかける。

「待ってお兄さん。すみません、車を止めてください。」
「でも由佳ちゃん……」

「ダメです。ここではっきりさせておきたいんです。」
由佳は車を止めてもらうようお願いし、車は路肩にスピードを落として止まった。

少し青ざめた顔で、由佳は大藤に向き直る、
その両手を大藤の膝の上に乗せて、まっすぐその理知的な顔を見た。
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