販売員だって恋します
でも家のことで巻き込むのは申し訳ない。
迷うけれど、そんな風に迷うくらいなら別れる、と言うのだ。

離れる?この手を離す?
そんなこと出来ない。

そんな由佳に大藤は優しく声をかけた。
「簡単ですよ。助けてって言って。」

俯いてしまった由佳の顔に、手のひらを添えて、大藤は自分の方に向ける。
泣いているその涙を、指で拭う。

「どんなことでも由佳を泣かせるなんて、俺は許しませんけど。」
「久信さん…。」

「どうしますか?このまま終わりにするか、助けてって言うか。」

様々なことが由佳の頭をよぎる。
このまま、もういいと言えば、大藤は迷わず車を降りるだろう。

そして、二度と由佳と触れ合うようなことはしない。

顔を合わせても他人のように振舞われるか、他の人と同じような作ったような笑顔を向けるだけだろう。

それが自分に耐えられるのか。
けれど、巻き込みたくない。
その気持ちは強くある。

「だから、俺を誰だと思っているのかな?」
大藤はその由佳の逡巡を読んだかのように笑う。

「そもそもその気持ちがなければ、先日もお手伝いしたりはしていないです。けど、由佳も、絋さんも……今、助けがいるんではないんですか?お手伝い、させてくれないのかな?由佳。」
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