販売員だって恋します
絋も黙って、前を向く。
沢木は運転しながら、その絋の頭をふわりと撫でた。

緊迫した事態のはずであるが、穏やかな空気が車の中には満ちていた。

大丈夫。
この人がいれば……。

由佳も絋も、お互いのパートナーに強く感謝した瞬間でもあったのだ。

飛行機の到着便が夜だったため、病院の時間外出入口から中に入る。

静かで、しん……としている病院のロビーは昼間とは全く違う様子だ。
その中を、4人で病室に向かった。

「ここのドクターがうちのお客様で、すぐ見て下さって病室も手配してくれたんだ。」

無事に一通りの治療が終わり、お礼を言った紘に『彼はある意味日本の宝ですから。』とドクターは笑っていたそうだ。

病室に到着しても、紘は中に入ろうとしなかった。
和解したとは言っても、まだ少しためらいはあるようだ。

「お兄さん、入らないの?」
「ごめん由佳ちゃん。入っていて。」

由佳はこくりと頷いて、病室のドアをそっと開ける。
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