販売員だって恋します
「楠田さんはどうされたいですか?」
大藤の声に、絋と沢木は黙り込む。

「そうだな……とても、迷うよ。」
言葉を選びながら話す楠田に、みんなは黙ってその声に聞き入った。

「実は明日から一週間の予約はすでにお断りした。数件のことだからね。けれど、これからの経営となると……まだ方向性は確定していないし、こうしたいという思いがあっても私には難しいかもしれない。では代替えはと言っても、今更絋に無理強いするのはどうか、と思うしねぇ。」

老舗を背負うのは楽ではないことを知っているから、絋に頼むのもどうかと思うのだ。
事は単純ではない。

沢木は絋しかいない、と言う。
しかし『くすだ』にとって、板場は必ず味方につけねばいけないところなのだ。

絋が迷っていて、引っ張っていけるようなものでもない。

光だというのならば、迷いは許されない立場なのだから。

凛として輝き続ける為には、強さがなければならないけれど、強さだけでは人は付いてこない。
付いていくに足る、信念と覚悟がないと。
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