販売員だって恋します
「絋、なくしたくないやりたくない、では通じない。お前もある程度、覚悟を決めなさい。とにかく、今週は時間をあげよう。沢木くんともよく話して考えて結論を出しなさい。」

「分かりました。」
「大藤さん、いろいろとご迷惑をかけて、申し訳ない。」
ベッドの上から、楠田が頭を下げる。

「いいえ。何かお役に立てることがあれば、お申し付け下さい。」

「由佳……」
「はい。」
「いい人を見つけたね。」
「ありがとうございます。」

会話を交わした時間は少しだけだけれど、大藤の思いや気持ち、覚悟も含めて伝わったのだろうと思う。

大藤は初めて楠田の前に立ったが、楠田のことを不思議な人だと思った。

老舗を背負って立つような人なのだし、由佳から聞いていた話もある。
もっと押しが強い人なのかと思ったのだ。

けれど実際の楠田はたおやかなようでいて、凛としている。
柔らかそうでいて揺るぎなく、とても強い信念を持っているのだろうと思わせた。

確かに得がたい人物だ。

それにひどく惹き付けられる魅力のある人だった。
なるほど絋と由佳の親なのだな、と納得出来る。
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