販売員だって恋します
サイドテーブルに置いていた眼鏡をかけて、大藤はベッドを降りる。
そして、書斎に向かった。

ドアを開けると、壁際の本棚から迷わず1冊のファイルを取り出した。

──まさか、また使う日が来るとは思わなかったが……。

『報告書』と書かれた分厚いファイル。
前回はさらりと流し読みしただけだが、今回は違う読み方をしなくてはいけない。

報告書を読み込みながら、ページをめくっていたその時、 デスクに置いていた携帯が着信を知らせた。

電話の相手は思いもかけない人物である。
それから、大藤は何件か電話で連絡を取った。

そのうちの1件は自分の上司である、成田だった。

『なるほど……ね。』
電話の向こうの成田からはなるほど、と言いつつも戸惑いは感じなかった。

何があっても、揺らがない人なのだ。

もちろん規模は違えども、成田自身が老舗の跡取であったことには変わりない。
今回の件について、ひと通りの説明をしたところだ。

それと、大藤自身の意思も。
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