販売員だって恋します
『大変だとは思うが。まあ、大藤がやってみたいと思うことを邪魔することはできないよ。本社の退職は手配しておくが、うちの個人秘書は引き続き兼務で構わないので、お願いしたいな。君がいないと困るんだ。今までと同じペースで構わないから。』

「けど……いいんですか?」
『言っただろう?君がいないと困るんだよ。それに、近くにいればお互い何とか出来ることもあるからね。』

「すみません……ありがとうございます。」
『うん。いい報告を待っているから。』

「はい。」
電話を切って、しばらく大藤は手元の携帯を見つめる。

温かい言葉だった。
いつもそうなのだ。

成田にもらったものはたくさんある。
居場所、安定した収入、そして、海千山千の経営者との駆け引きや経営者としての在り方。

いちばん近くで見ていたのは自分で、自分にはそれは向いていないことは分かっている。
二番手が自分に最も向いている立場であることも。

だからこそ、今役立てることがあることも分かっているから。

立ち上がった大藤は、書斎を出てリビングに向かった。
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