販売員だって恋します
このままでは寝られそうにない。

リビングの間接照明だけをつけて、たまに自宅で飲むウイスキーをグラスに入れる。

国産のそれを、成田にもらった時のことを思い出していた。
そのこだわりを聞いて、成田らしいと感じたものだった。

甘さと芳醇な香りを楽しむ。

これをきちんと楽しめるようになったのは、成田のお陰なのだ。

そうか……大人としての嗜みやこだわり、そんなものも叩き込まれたな……。

先ほどの電話は役員秘書を退職させてほしいという電話だったのだ。

最初に受けた電話は、楠田からのものだった。
『くすだ』の経営者にならないか、という話。

それはすぐに断った。
少なくとも、今それを引き受ける段階にはない。
そう言って楠田を説得した。

最終的にそれには納得してくれたが、経営に関わってもらうことは、不可能だろうか?と聞かれた。

大藤は由佳も絋も助けることは決めていた。
中途半端なことをする気はない。
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