販売員だって恋します
由佳があの時楠田の家から巣立つことを決めたように、自分も巣立つ時が来たんだろうと思う。

成田のもとは居心地が良かった。
大藤にとっての巣箱は、成田の側にいることだったのだ。

けど、大藤と由佳は、お互いをお互いの居場所と決めた。

「久信さん……?」
眠そうな顔の由佳がリビングを覗く。
由佳も眠りが浅かったのだろう。

「由佳、おいで」
ウイスキーをガラステーブルに置いて、腕を開くと、てくてくと歩いてきた由佳が膝の上に座った。

こてん、と大藤にもたれる。
「飲んでたの?」
「眠れなくて。由佳も起きたんだな」
大藤は由佳をそっと撫でた。

「ん……。久信さんいなくて……」
まだ少し寝惚けているのか、少し舌ったらずなのが可愛らしい。

目の前にあった額にキスをすると、おでこに手を触れた由佳がぎゅうっと抱きついてきて、唇を重ねる。

「ん……ふふっ、お酒の香りがします」
「いや?」

「ううん。いい香り。酔いそう」
「いい酒なんです。少し飲みますか?」
「ちょっとだけ」
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