販売員だって恋します
胸の辺りに散る花びらのように、情熱的な赤い跡があったから。
ほとんど、服に隠れて見えない場所ではある。

けれど……、
忘れるなんてさせない、とでも言うかのように。
なかったことになんてさせないですよ、と刻みつけられたかのようだ。

でも、好きにはなりませんから。

振り切るように鏡の前から離れて、由佳はシャワーを浴び胸元が隠れる服を着て、メイクをする。

この仕事をするようになってから、メイクをする時間は由佳にとっては、スイッチを入れる時間になっている。

ナチュラルメイクであったとしても、メイクをしている自分は大人の自分だ、と。

綺麗にメイクを仕上げて、最後にパフュームをつけて仕上げる。
するとそれをちょうど見ていたかのように、ピンポーンとインターホンが鳴った。

「はい。」
『由佳さん、お迎えに上がりました。』
インターホンの画面に映っていたのは父の運転手だ。

「今、行きます。」
由佳は『くすだ』という名の料亭の娘である。
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