販売員だって恋します
いくら格式があると言っても、『くすだ』は所詮は一介の料亭に他ならない。
そこに、神崎家の御曹司とは。

普通に食事が始まり、父は珍しく座敷に残り、料理の説明をする。
一通りの説明を終えると、席を外した。

由佳は神崎と共に残され、食事を共にすることになる。
さすがに神崎は、食事の仕方も綺麗だった。

「由佳さん……お綺麗ですね。」
「ありがとうございます。」

ふっと笑いかけられて、ん?と由佳は首を傾げた。

「やっくんって呼んでくれないんですか?ゆーちゃん。」

ゆーちゃん……??
なんだか、聞き覚えが……。

「軽井沢でかくれんぼしましたよね。僕はあなたを連れ出してひどく怒られました。」

小学校低学年くらいのことだったと思う。
オーベルジュで食事を終え、建物内を散策していたら、兄と同じくらいの歳の少年に声をかけられたのだ。

同い年くらいの子はいなかったので、とても楽しかった。
仲良くなって、確かに少し遊んだ覚えがある。
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