販売員だって恋します
「勿体ないです……。」
「いいえ。今日お会いして、その振る舞いを見ていたら、あなた以上に僕にふさわしい人はいないと思いました。」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、由佳は戸惑う。

「とても……とてもお気持ちは嬉しいんですけど、そもそも今日、なぜこの席を用意されていたのかも……。私は何も知らずにここに来たんです。」

「ふうん……そうなんだ。」
神崎は少し考えるように、首を傾げている。

「ではまずは、少しずつ知り合ってゆくのはいかがですか?」
ふわりと由佳にむかって、神崎は柔らかく微笑む。

「神崎さん、おモテになるでしょう。」
「そうですね。そんなことはないとは言わないです。でも、僕はそういうのと結婚は別だって思っていますから。」
キッパリと、そして冷静にそう返された。

「え……?」
「あなたもそうじゃないですか?自分はそういう立場ではないと、自覚されて育ってきた方かと思いました。この席のことは知らされていなかったとおっしゃっていましたけど、その振る舞いには……こう、見惚れてしまうものがありました。様式美のような。さすがだなって思いました。」
とても冷静に淡々とそう言われて、由佳は納得する。
< 41 / 267 >

この作品をシェア

pagetop