販売員だって恋します
この旅館は人気のある旅館ではあるが、旧館を建て替える案が今出ていた。
それについては、賛成だ。

新しい建物は人を呼ぶし、それによって、また別のサイクルが生まれることもある。
そのコンセプトを今、考えているところだった。

もちろん部下からもいくつかの案が出ているが、靖幸自身は奇をてらっているものでなくていいと考えている。

その流れの中で、どうしようかと模索していたところ『くすだ』のことを思い出した。

高級旅館では、料理を楽しみとされている人も多い。
普段は敷居が高い料理でも、何か、コラボのような形で提供してもらうことはできないだろうか……と考えたのだ。

通常ならば断られるとは思うが、父親同士、馴染みがある。
声をかけてみよう。
神崎はそう思ったのだ。

当然、最初は難色を示していた楠田だった。

けれど神崎が熱心に口説き落とし、やっとコンセプトを聞いてもらえるところまで話をつけたところ、
「一度『くすだ』にいらっしゃいませんか?」
と言われたのだ。
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