販売員だって恋します
奥を見ると、腕を組んで壁にもたれている男性の姿が見える。
綺麗なスーツ、整えられた髪型、フレームレスの眼鏡。

あの人だ…!
あの時、由佳の目を奪った人。
奥から歩いてきたその人と、つい足を止めてしまっていた由佳と、目が合う。

「おや……」
「……。な、なにも見てません」

「そうですか……」
彼はためらいなく、由佳のあごを持ち上げて、近くの壁に腕をつく。

……っ、近……い。

彼の背が高いので、見下ろされる感じも、顔の横に腕をつかれて逃げられない感じも、この距離感も、彼からはためらいを感じない。

その空気が冷たいような気がして、背中はひやっとしてどきどきするのに、逆に顔は熱くて自分がよく分からない。

「困っているんですよ。」
「そ、そうなんですか……。」
突然発せられた言葉は、意味が分からない。

「女性が必要なのですけど、先程ご覧頂いた通りで、振られてしまったので。」
そんなことより唇がくっつきそうなくらい、顔が近い。
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