販売員だって恋します
そっと重ねられた唇は相変わらず、少しひんやりしていて、それでいて甘くて、それだけで背筋がぞくんとする。

大藤の身長が高いせいか、包み込まれるように抱きしめられると、由佳はつい胸元に縋り付いてしまいたくなる。

「その顔……反則。」
少し掠れた甘い声が耳元に響く。

そっちだって反則、と言いたい。
冷たいかと思うと甘くて、冷静かと思うと情熱的。

「ズルい、です……」
「何が?」

時折、大藤の唇が由佳の唇を掠めながら、そんなことを聞かれた。

あらかじめ、悪い人だと、本気にはならないと言ったのに、由佳にはこんな風に触れるのは、ズルい。

それで、何が?なんて、そのすべてなのに。

前の時は、もうこの人に触れる機会なんてないかもしれないと思ったから、抱かれてもいいと思った。

けれど、今のこの状況はもう言い訳なんて出来ない。

反則とか、ズルいとか、言葉を重ねても、自分の気持ちは誤魔化しようがない。
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