販売員だって恋します
低くて、よく響く声。
冷たく見える整った相貌。
口元は微笑みを形作っているけど、決して笑ってはいない。

「あの、えっと私は……。」
「肌、綺麗ですね。楠田さん。」
指でするりと頬を撫でられ、由佳は身体がビクンとした。

彼は由佳の名札を見て、その名前を呼んだ。
恐らくブランドも知られたし、どうしよう。逃げられない。

初めて姿を見た時は、どんな人だろうって、ちょっと素敵かなって思ったけれど、冷たくて妖艶な笑みを浮かべているこの人は何者なの?!

「い……ちおう、美容部員なので」
「は?」
「え?肌……ですよね」

「肌……ああ……」
ふっと、笑われたそれは本当の笑顔だった。

「うん、そう。肌です。楠田さん、気に入ったな。すみません、この後お時間ないですか?正確には業務後で構わないのですが。本当に困っているので、助けて頂けると有難いのですが」

彼は身体を起こして、由佳の前に立つ。
真っ直ぐに立つその姿勢は、見蕩れるくらいに綺麗だ。
やはり背が高い。
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