販売員だって恋します
由佳も背は高い方で、168センチある。
さらに会社の規則でヒールのあるパンプスを履いているため、恐らく170センチは超えているのだが、この人はさらに背が高い。
180センチは超えているだろう。

由佳はふっと息をはいた。
「どういうご用向きなんでしょうか」

「ある方とお会いするのに、恋人がいるとお伝えしたので、それならば連れてきてほしいと言われたのですよ。けど、あの通り逃げられてしまって」

「身代わりですか?」
彼は苦笑する。

「まあ、そういうことです」
「そんなことなら構いませんけど」
「本当に?」

「はい。単なる身代わりですよね。それにお困りだって仰っていたし」
最低!とかなじられているところまで、目撃してしまったし。

「見られていましたよね」
彼は少しだけ、バツの悪そうな顔をして眼鏡を指で押し上げる。

指、すらっとしててキレイだな……。
つい、ぼんやりとそれを目で追ってしまって、由佳はハッとした。

「見てないですよ。最低とか言われてたとか」
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