販売員だって恋します
「僕はある意味君を殴ったその男より、非情かも知れません。君こそそこで僕を騙そうとするような人間なら、まず分かりませんなどとは言わないだろうね。なんとしてでも家に入ろうとするだろう。だから、信用出来ると言うんだよ。」

確かに成田はその辺のゴロツキなんか、相手にならないくらいの雰囲気を纏うことがある。
多分、この人には敵わない。

それに無防備なようでいて、迫力があるのだ。これがカリスマというものなのだろうか。

「経済界もね、魑魅魍魎が跋扈するような世界なのでね。」
「ちみもうりょう…。」

「そう、こわーいお化けみたいなヤツばっかりってこと。お化けかタヌキか……まあ、いろいろだよ。けど君が考えているより甘い世界ではない。」

そんな風にして知り合った成田に雇われることになったのだ。

前職を辞めて、成田家に運転手兼個人秘書として雇われたのは、自分としては良かったと思っている。

当時、中学生だった成田翔馬は、なんというか、とてもしつけの行き届いた子供だった。
車の後部座席の中ですら、背筋を伸ばしているような。
< 83 / 267 >

この作品をシェア

pagetop