販売員だって恋します
厳しく鍛えられた大藤の目から見ても、由佳のマナーは模範的とも言える美しさだった。

それに、外食に慣れている。
たくさん並ぶナイフとフォークにも、一切怯まない。
むしろ、自然とも言えるような仕草で食事を進めていた。

最初に一緒に行った店は、なかなかに高級な店構えだったと思うのだが、戸惑っている様子もなかった。
どんな子なんだ?と、とても気になったのだ。

しかも、昨日のあのあざやかさ。
気持ちいいくらいに、ハッキリと言い切るので、思わず笑ってしまったくらいだ。

それも、全て的を射ていた。

だから、だろうか。こんな気持ちになったのは……。

けれど、由佳をとても愛おしいと思う反面、大事に思うから、自分でなくてもいいのではないかと思うのだ。

由佳が今は割り切った関係でも、問題ないのならいい。
自分はそうではないけれど。

こんな裏道ばかりを歩いてきて、まともに人間関係を築けないような自分には、由佳はもったいない。

彼女に思う人が出来たのなら、いつでも手放してあげなくてはいけない。

由佳の無垢とも言える寝顔を見ながら、自分の想いは胸に秘める、と決心した大藤なのだった。

そして、今だけ……と、胸の中にそっと由佳を抱きしめる。
< 92 / 267 >

この作品をシェア

pagetop