販売員だって恋します
「全く物怖じしないのはさすがだな。」
雅己は心から感心した様子だった。
「相当、鍛えられているはずです。あの、『くすだ』ですから。」

歴史の長さだけでいえば、神崎ホテルより、『くすだ』の方が歴史があるのだ。

神崎ホテルは手広く事業を行なっているだけで、格式は『くすだ』の方が高い。
その伝統と格式を守り続けているところに、業界のお歴々は一目置いているのだ。

もちろん、雅己もその1人だ。
『くすだ』は普段使い出来るような気軽な感じの店ではない。
もちろん、そこに価値がある。

ホテルも同様だ。
お客様の『特別』に対応する。

そこに価値を置いていることは間違いなく、その中でも『くすだ』は特別な存在なのだ。

業界内でも、一線を画す存在。

業界内では有名な話がある。
ある国会議員がその権威で『くすだ』を予約した。
食事の最中に芸者を呼べ、と言い出したその議員に亭主は『どうぞ、お料理をお楽しみください。』と頑として、しかし、笑顔で受け入れず、その議員の予約は2度と取らなかったという話だ。
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