販売員だって恋します
この逸話は、途中で追い返すこともしなかったというところが雅己の気に入りでもある。

出て行けと言うこともできたはずだが、それはしない。

できないことはできない。
けれど言わずして意思はしっかり伝える。
そして、その後の出入り禁止。
痺れる話ではないか。

その『くすだ』のお嬢。
楽しそうに食事をする姿に、なるほどなあ……と思う。

「ま、頑張れよ。」
「言われなくても、です。」

相応しいか、相応しくないかで言えば、神崎ホテルグループにこれほど相応しい人はいない。

けれど、今神崎靖幸の気持ちはそれだけに留まらなかった。

表情豊かで、それが可愛くて、見た目にも他人の注目を集めるほど綺麗な由佳。
今日のロビーでも、とてつもなく目立っていた。

オフホワイトのワンピースは由佳の清楚な雰囲気を引き立てる。

その彼女と待ち合わせなのが、人目の中から彼女を攫うことが、あれほど気分良かったことはない。
< 99 / 267 >

この作品をシェア

pagetop