金木犀


タクシーが到着してから、あまりの身体の怠さと息苦しさに耐えきれず、身を投げ出すように乗り込んでいた。



「お客さん、大丈夫ですか?


病院はどちらへ?」



「旭ヶ丘医科大学病院へお願いします。」



「分かりました。」



旭ヶ丘医科大学病院は、私が入院していたところ。



本当は風邪くらいで大学病院には行かないけど。



でも、だからと言って知らない病院にも行きたくない。



少しでも知っている所に行った方がマシだよね。




タクシーに揺られること20分、病院に着いた。



受付を済ませると、呼吸器内科へ回されて私は呼吸器内科の近くの椅子に腰を下ろし診察を待った。



「今日はどうされました?」



ぼやける視界の中、携帯を見ながら待っていると、看護師が問診を始めた。



「えっと…


ちょっと昨日から高熱が出ていて、今は微熱くらいまで下がったんですけど、体の怠さと頭痛と息苦しさがあって…。」




「喘鳴が出ているみたいですけど、過去に病気とか現にかかっている病気とかはありますか?


それに、ここの診察券も持っていたみたですがかかったことがありました?」




「…別に言わなくても」



「あ、すみません。


ただ、できるだけ詳しく聞いておけば診察の時間も手短で済むと思いまして。


診察を好む人はいないですし、長く待っているのも辛いと思うのですが…。


それに、患者様の情報を詳しく聞かせてもらうことで患者様に合わせた診察も出来ます。」




年配看護師だからだろうか。




すごく丁寧で、高校生の私にもタメ口を使わず分かりやすく説明をしてくれた。




「実は、2年前にここの小児科にかかっていました。


気管支喘息の診断を受けて、きっと今も完治していないと思います。」




「思います…って?」




「退院してから……


通院…してなかったんです。」



通院してないと言われたら、病院側は自業自得だと思うだろうか。




まあ、体調管理が出来ていなかった私が完全に悪いんだろうけど…。



「そうですか。今まで辛かったですよね…。


もし、座っているのが辛い様でしたら今は人も少ないのでソファーに横になっていても大丈夫ですよ。


すぐに準備して、お呼び致しますね。」




そう言って、その看護師は私の元から去った。



胸元に付けていた名札に、『近藤 晴美』と書かれていた。



まあ、きっとすぐ忘れるだろうけど。



丁寧に接してくれたり、親切にしてくれる人の名前はどうしても確認してしまう。



優しくしてもらった人の記憶は、どこかで留めておきたいという気持ちが微かに私にも残っているのかな。
< 11 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop