金木犀
ーside 星南ー
どうしていつも、こうなってしまうんだろう。
どうして抵抗が出来ないのだろう。
押し返すことなんて簡単にできるはずなのに。
まるで心の奥底に押し込んだ感情や気持ちを引っ張り出されたような。
そんな気がしていた。
母親に捨てられてから、悲しい気持ちや涙は心の奥底にしまい込み、前を向いて強く生きようと心の中に決めたのに。
そうすることでしか、生きる術を見つけられなかったから。
誰かに頼ることの出来なかった私は、いつも心の中でこの理不尽に作られた世の中に刃向かう言葉を探し続けていたんだ。
あからさまに可哀想っていう目で見られたこともたくさんあった。
同情の目、同情の言葉をかけられても助けてくれる人なんていなかった。
所詮、人は他人事でしか捉えてはくれない。
そう諦めていた。
だから、誰にも期待はしないと。
何も求めたりはしない。
生半可な気持ちと、中途半端な気持ちで関わっていた。
私に声をかける全ての人に、冷たい気持ちで関わっていたのに。
それなのに、この人は。
そんな無責任なことを言ってもいいわけ?
そこまで言葉にして、後先考えずそう話して。
その相手が私でなかったらどうしてたつもりなの?
他の人ならきっと、そんな言葉を信じきってこの男に着いていくよ?
私は、そんな言葉にコロッと騙されない。
「あのさ、そんなこと簡単に言っていいわけ?
もし、相手が私じゃなかったら…」
「星南だから言ってるんだ。
俺は、そこまでできた人間でもない。
だから、星南以外の女なんて正直どうでもいい。
誰にでも言ってると思ったのか?
星南。
相手がお前だから言ってる。
心から守りたいと思う相手だからこそ。」
「どうして…
そこまでするの?
人の人生を引き受けるなんて、そんな…」
「責任があることくらい分かってる。
決して軽くないことも。
どれだけ考えても、答えは星南を支えていきたい。
何度考えたとしても、最終的にはそこに辿り着くんだよ。
それで、分かったんだ。
俺は、星南がいい。
たった1人のお前が…」
私の頬に手を添えて、そう切なく微笑む湊。
真っ直ぐ見つめるその視線から、決して軽い言葉でない事が伝わる。
無責任に掛けている言葉ではないことも。
それでも、この人に甘えてしまったら…
裏切られた時どうする?
取り返しのつかないことになったら?
本当はもう、疲れたよ…。
1人で生きていくことにも。
見えない未来に不安を抱えて、考えながら生きていくことにも。
あの日から、私の人生は大きく変わった。
母親に捨てられてからの方が、苦労が耐えなかった。
あんな母親でも、いた方がマシだったのかもしれない。
結局私は、あの母親がいなければ何もできないと痛いくらい思い知らされた。
信用していいの?
この人を?
「分からない…」
「えっ?」
「もう、分からないの!
何もかも、分からないよ!」
ただただ、自分の意思とは関係なく出てくる涙を流し、泣き崩れるしか無かった。
この人にすがりたい気持ちなんてなかった。
だけど、この感情を我慢することなんてできなかった。
この人の言葉には、重みがあって裏がないことが分かるから適当に返事が返せない。
それに、抱きしめられているこの温もりが暖かい。
今まで、そんなこと感じたことなんて1度もなかったのに。
信じてもいいの?
完全に信用し切って、裏切られて。
傷つけられて、立ち直れなくなったら…
それこそもう、取り返しがつかないような気がする。
それでも…
もう、いいよね?
そうなったとしても、今はもう…
楽になりたい…。
「頑張った…
よく、頑張ったよ。」
わけも分からないはずの私の言葉に、ただ湊はそう言って私を抱きしめてくれていた。
どうしていつも、こうなってしまうんだろう。
どうして抵抗が出来ないのだろう。
押し返すことなんて簡単にできるはずなのに。
まるで心の奥底に押し込んだ感情や気持ちを引っ張り出されたような。
そんな気がしていた。
母親に捨てられてから、悲しい気持ちや涙は心の奥底にしまい込み、前を向いて強く生きようと心の中に決めたのに。
そうすることでしか、生きる術を見つけられなかったから。
誰かに頼ることの出来なかった私は、いつも心の中でこの理不尽に作られた世の中に刃向かう言葉を探し続けていたんだ。
あからさまに可哀想っていう目で見られたこともたくさんあった。
同情の目、同情の言葉をかけられても助けてくれる人なんていなかった。
所詮、人は他人事でしか捉えてはくれない。
そう諦めていた。
だから、誰にも期待はしないと。
何も求めたりはしない。
生半可な気持ちと、中途半端な気持ちで関わっていた。
私に声をかける全ての人に、冷たい気持ちで関わっていたのに。
それなのに、この人は。
そんな無責任なことを言ってもいいわけ?
そこまで言葉にして、後先考えずそう話して。
その相手が私でなかったらどうしてたつもりなの?
他の人ならきっと、そんな言葉を信じきってこの男に着いていくよ?
私は、そんな言葉にコロッと騙されない。
「あのさ、そんなこと簡単に言っていいわけ?
もし、相手が私じゃなかったら…」
「星南だから言ってるんだ。
俺は、そこまでできた人間でもない。
だから、星南以外の女なんて正直どうでもいい。
誰にでも言ってると思ったのか?
星南。
相手がお前だから言ってる。
心から守りたいと思う相手だからこそ。」
「どうして…
そこまでするの?
人の人生を引き受けるなんて、そんな…」
「責任があることくらい分かってる。
決して軽くないことも。
どれだけ考えても、答えは星南を支えていきたい。
何度考えたとしても、最終的にはそこに辿り着くんだよ。
それで、分かったんだ。
俺は、星南がいい。
たった1人のお前が…」
私の頬に手を添えて、そう切なく微笑む湊。
真っ直ぐ見つめるその視線から、決して軽い言葉でない事が伝わる。
無責任に掛けている言葉ではないことも。
それでも、この人に甘えてしまったら…
裏切られた時どうする?
取り返しのつかないことになったら?
本当はもう、疲れたよ…。
1人で生きていくことにも。
見えない未来に不安を抱えて、考えながら生きていくことにも。
あの日から、私の人生は大きく変わった。
母親に捨てられてからの方が、苦労が耐えなかった。
あんな母親でも、いた方がマシだったのかもしれない。
結局私は、あの母親がいなければ何もできないと痛いくらい思い知らされた。
信用していいの?
この人を?
「分からない…」
「えっ?」
「もう、分からないの!
何もかも、分からないよ!」
ただただ、自分の意思とは関係なく出てくる涙を流し、泣き崩れるしか無かった。
この人にすがりたい気持ちなんてなかった。
だけど、この感情を我慢することなんてできなかった。
この人の言葉には、重みがあって裏がないことが分かるから適当に返事が返せない。
それに、抱きしめられているこの温もりが暖かい。
今まで、そんなこと感じたことなんて1度もなかったのに。
信じてもいいの?
完全に信用し切って、裏切られて。
傷つけられて、立ち直れなくなったら…
それこそもう、取り返しがつかないような気がする。
それでも…
もう、いいよね?
そうなったとしても、今はもう…
楽になりたい…。
「頑張った…
よく、頑張ったよ。」
わけも分からないはずの私の言葉に、ただ湊はそう言って私を抱きしめてくれていた。