金木犀
どれぐらい、時間が経ったんだろう。
「星南…。」
「何?」
「いや、そろそろ星南ちゃんの可愛いお顔が見たいんだけど?」
それは…!
「無理。」
「えっ?」
「無理なものは無理!」
「そんなに俺から離れたくない?」
「えっ?」
「何だ、それならそれで素直に言えよ。
可愛いな星南は本当に。」
「な、何言って…!」
「ん?違うのか?」
「ち、違うに決まってるじゃない!
勘違いも程々にしてよね!」
この顔を見られるのが嫌っていうだけに決まってるじゃない!
泣き顔を、この人に見られるのは一生の恥よ!
「じゃあ、どうする?
このままこうしている?
まあ、俺はそれはそれでいいんだけどね。」
そう言って楽しそうにしている湊。
「顔隠すから、すぐに背を向けて部屋から出て行って。」
「えー、それはそれで悲しいな。」
「いいから!早く病室から出てよ!
落ち着いたら呼べばいいんでしょう?」
「お、分かってるじゃん星南。
落ち着いたら、必ずまた俺のこと呼んでよね?」
随分聞き分けがいい。
話せばちゃんと分かるんじゃない。
「分かったから早く出てよ!」
「はいはい、分かったよ。
まったく、すーぐ星南ちゃんは怒るんだから。
あんまり怒ると、喘息の発作が起きるから気をつけろよな。」
痛いところをつかれた…。
時々、医者としての言葉をかける湊に、否定ができない。
「仕方ないじゃない、誰かさんが怒らせるんだから…。
いいから早く…」
「分かったよ。」
湊はそう言って、私から背を向けて部屋から出ようとしたのを確認し、私は目を拭った。
「はい、隙あり!」
「は?」
「星南、まだまだだな。隙だらけだよ。
そもそも、星南の涙を拭うのが俺の役目だから。」
「は?意味分かんないんだけど!」
「星南、もう絶対俺以外の男と2人きりになるなよ?」
「な、何で私が…」
なんでそんなこと言われないといけないわけ?
あんたに関係ないでしょう?
「やばいな…。」
「え?」
「星南の泣き顔、そそられる。」
「な、何言ってん…の…」
言葉を遮られるように、あっという間に私は唇を湊に塞がれていた。
熱い吐息がふりかかり、息をつくのもままならない。
湊は、私の目から溢れ出た涙を指で優しく拭い、大きな手のひらで私の頬を包み込んだ。
早く解放してほしい一心で、私は壁まで後ずさりすると、湊の瞳が光り片方の肘が私の頭の上に当てられていた。
「へぇー。そんなにこれやられたかった?」
「は?」
「可愛い…」
何これ…
こんなシチュエーションなんて求めてない。
これって所謂、肘どんってやつ?
早く、解放してほしかっただけなのに。
私としたことが、余計に湊のスイッチを入れてしまった。
パジャマの中に手が入った時、
パコーン!!
えっ?
鈍い音と共に、私はやっと解放された。