金木犀
「すごい。
すごいよ!
こんなに綺麗な星空、見たことない。」
「そんなに気に入ってもらえると、俺も連れてきた甲斐があるよ。
今日は随分、天気が良かったからもしかしたら星が綺麗に見えると思ってさ。」
「私、ずっと心に余裕がなくて空を見上げることなんてなかったの。」
私は、気づいたらそう言葉にしていた。
「余裕がなかった…か。」
「私ね、学校から帰ってきたらすぐにバイトに行って、22時近くにバイトが終わって帰って、また別の深夜のバイトに行く日もあったの。」
「え?深夜のバイトって…
お前、未成年だろう?」
「歳を偽って、深夜のバイトしてたんだ…。
夜中の3時まで。
深夜のバイトは、お金も稼げるから。
私、顔が老けてるのか20歳でも通せるの。
普通にお酒も買えるし。」
あれ、どうしてだろう?
こんなこと、話すつもりはなかったのに…。
気づいたら、止まらず言葉が溢れていく。
「老けてるって…
っていうか、お酒って何だよ。
老けてるって言うよりも、お前があまりにも大人びているからだろう?
髪を巻いて、化粧して、格好もそれなりにいい格好をしていたら未成年になんて見えないよ。
それに何よりも、星南の雰囲気は大人というか考えも言葉もしっかりしすぎているから歳もごまかせたんじゃないのか?」
「何で…そこまで知ってるの?
いや、まあそんな事はどうでもいいんだけど…」
「どうでも良くなんてないよ。星南に関わる出来事全て、俺には大きく関わる。
それに、あの夜に会った時のお前がそうだっただろう?」
「あまり、人の心に入り込もうとしない方が自分のためだよ?
それに、それだけでよく分かるね…。
ていうか、出会ったあの日の夜のことなんてよく覚えてるね。」
「星南以外の人に興味なんてない。
やたらむやみに、他のやつの心に入り込もうなんて思ってないから安心しろ。
それに、好きな女と寝た日のことは一生覚えるよ。
あの時の星南も、緩く巻かれた髪だったけど手慣れている感じはしたからな。
きっと、普段の生活でも髪を巻いてるんだなって思っただけだよ。
それでも、熱を通しているのに髪は綺麗だよな。
艶があって、さらさらで。
柔らかくていい匂いがする。」
そう言って、湊は私の髪を横に流し首元に優しく唇を落とした。