金木犀
「ちょっと!」
自分でも驚くくらいに、体がビクンと反応したのが分かる。
不意にこういうことをされると、弱い心の中を見られているような気がする。
この人の、私を見る瞳は全てを見透かしているかのようで。
まるで、私に嘘はつかせないようにと。
心の奥底にしまい込んだ感情を、引っ張り出されたような感覚になる。
辛い。
苦しい。
寂しい。
そんな邪魔な感情、弱い感情のせいで私はいつも心がぐらついてしまう。
「その瞳…。」
「えっ?」
「そそられるな…。」
「は?」
「その必死で生きているような瞳。
曇りのない潤んだ綺麗な瞳。
吸い込まれそうになる。
星南の仕草1つ1つが、たまらなく愛おしい。」
私に反対の意義をさせるまもなく、湊は私の唇を塞いだ。
大きな手が、私の頬を包み込み温かさを感じる。
この先の不安を、かき消してくれるかのように。
後ろに倒れないようにと、片方の腕で私の腰を支えてくれている。
その大きな手のひらが、信じられないくらいに安心出来た。
包み込まれ、守られているような感覚で。
信じてついて行っても、大丈夫と導いてくれているみたいで。
その気持ちに、何も根拠なんてないのに。
「ん…湊…」
「星南…。」
湊の名前を呼び、湊は更に激しく舌を絡め、次第に体温が熱くなっていくのに気づく。
湊は私のパジャマに手をかけてきて、それをすかさず阻止するように声をかけた。
「ちょっ…ちょっと、さすがにまずいんじゃ…。」
やっと唇が解放され、途切れ途切れになる呼吸の中、私は湊の手を止めて湊を我に帰らせた。
「悪い…。完全に理性飛んだ…。」
「悪いじゃないわよ。
本当に…何…考えてるの…」
「本当にごめん。苦しくないか?」
「苦しいわよ!あれだけ長くキスしてたんだから。
しばらく、湊とはキスしないから!」
「星南があまりにも可愛く、俺の名前を呼ぶから完全に理性持って行かれたんだって…。
そんなにむくれんなよ。なあ、こっち向けって。」
「もう!寒いからベッドに戻る!」
湊に掴まれた手を振り払い、私は点滴台を押しながら自分の病室へ戻ろうと歩み始めた。
「待てって。ほら、とりあえず深呼吸をしてから戻れよ。
そんなにプンプンしてると、発作に繋がるだろ?
まあ、原因が俺なんだろうけどさ…
1回、ゆっくり呼吸をして。」
このまま抵抗したら、本当に発作に繋がると感じ私は湊の言う通りに深呼吸をした。
少しずつ、呼吸が楽になってから私と湊は病室に戻った。