金木犀
ーside 湊ー
初めて、星南が俺の名前を呼んでくれた。
下の名前を呼ばれただけで、完全に理性が持っていかれた。
あまりにも切なく、可愛い声で呼ぶから。
まるで、俺を求めているかのようで。
少しでも、心が動いてくれたような気がした。
星南のあの声を、他の誰かに聞かせたくなんてない。
小さく、今にも消えてしまいそうな温もりを手放さないようにと、感情のままに星南を抱きしめていた。
安心したかのように、腕の中で子供のようにぐっすり眠る星南の姿を見て、思わず顔が綻ぶ。
「今日はそばにいて。」
眠る直前に星南はそう言った。
その言葉に、再び俺の理性が吹き飛ばされそうになったけど、不安な表情をする星南に安心してもらいたくて何とか気持ちを抑えることができた。
星南は、夜になるといつも不安な表情を見せる。
そういえば、あの日の夜もそうだったな。
あの日、星南は
「ご飯を食べさせてくれるから一緒に寝ただけ。」
そうは言っていたけど、きっと心の中の不安を見ず知らずの人の温もりで、かき消そうとしていたのかもしれないな。
心にぽっかり空いた穴を埋めるかのように。
不安で眠れない夜が、怖かったんだろうな。
それでもきっと、星南は完全に安心することなんて出来なかったんだろうな。
決して心が、満たされることもなかったんだろうな。
きっと、その不安を埋められるのは心から星南が安心できると認めた人なんだろうな。
俺も1日でも早く、そんな存在になりたい。
星南に空いた心の穴を、俺で埋めてやりたい。
他の余計なことを考えなくてもいいように、俺でいっぱいにしてやりたい。
俺以外のことを、考えなくていいのだと。
俺は、お前以上の人はいないから。
星南に触れて、加速する心臓の鼓動。
一つ一つの仕草や表情が、俺の胸をざわつかせる。
こんなにも、誰かに会いたくて抱きしめたいと思ったことなんてなかった。
2年前のたった数分の診察だったけど、患者のカルテを見る度に星南に会いたくて仕方なかった。
星南を追いかけることに必死で、見失わないようにと。
冷たい言葉、冷たい感情で俺に当たってくるけど、きっとそれは本心ではないってことは分かる。
本当は、誰よりも心が真っ直ぐで温かい気持ちを持った素敵な女性なんだ。
強がっていないと、自分の心が弱くなりそうで、壊れてしまいそうで、きっと怖いんだろうな。
何よりも、完全に人を信用することもできなくなっているんだろな。
いくら俺が傍にいて、星南を支えていくと伝えても、きっと星南はどこか俺に一線を引いてしまう。
言葉や行動で示したとしても。
心に高い壁を作って、隠れてしまう。
そんな星南の様子を見ていたから、こうして少しだけ俺を頼りにしてくれたことがたまらなく嬉しい。
頼まなくても、お前のそばにいるのに。
星南を起こさないように、俺は星南のベッドから出る。
さすがに、俺が一緒に寝ていると見回りに来る看護師に怒られるよな…。
近くにある椅子を、星南のベッドサイドに近づけ腰を降ろした。
「随分とはまってるわね。」
星南の手を握り、眠りを見守っていると小声で話す声が聞こえ振り返る。
「姉貴、何してんだよ。」
初めて、星南が俺の名前を呼んでくれた。
下の名前を呼ばれただけで、完全に理性が持っていかれた。
あまりにも切なく、可愛い声で呼ぶから。
まるで、俺を求めているかのようで。
少しでも、心が動いてくれたような気がした。
星南のあの声を、他の誰かに聞かせたくなんてない。
小さく、今にも消えてしまいそうな温もりを手放さないようにと、感情のままに星南を抱きしめていた。
安心したかのように、腕の中で子供のようにぐっすり眠る星南の姿を見て、思わず顔が綻ぶ。
「今日はそばにいて。」
眠る直前に星南はそう言った。
その言葉に、再び俺の理性が吹き飛ばされそうになったけど、不安な表情をする星南に安心してもらいたくて何とか気持ちを抑えることができた。
星南は、夜になるといつも不安な表情を見せる。
そういえば、あの日の夜もそうだったな。
あの日、星南は
「ご飯を食べさせてくれるから一緒に寝ただけ。」
そうは言っていたけど、きっと心の中の不安を見ず知らずの人の温もりで、かき消そうとしていたのかもしれないな。
心にぽっかり空いた穴を埋めるかのように。
不安で眠れない夜が、怖かったんだろうな。
それでもきっと、星南は完全に安心することなんて出来なかったんだろうな。
決して心が、満たされることもなかったんだろうな。
きっと、その不安を埋められるのは心から星南が安心できると認めた人なんだろうな。
俺も1日でも早く、そんな存在になりたい。
星南に空いた心の穴を、俺で埋めてやりたい。
他の余計なことを考えなくてもいいように、俺でいっぱいにしてやりたい。
俺以外のことを、考えなくていいのだと。
俺は、お前以上の人はいないから。
星南に触れて、加速する心臓の鼓動。
一つ一つの仕草や表情が、俺の胸をざわつかせる。
こんなにも、誰かに会いたくて抱きしめたいと思ったことなんてなかった。
2年前のたった数分の診察だったけど、患者のカルテを見る度に星南に会いたくて仕方なかった。
星南を追いかけることに必死で、見失わないようにと。
冷たい言葉、冷たい感情で俺に当たってくるけど、きっとそれは本心ではないってことは分かる。
本当は、誰よりも心が真っ直ぐで温かい気持ちを持った素敵な女性なんだ。
強がっていないと、自分の心が弱くなりそうで、壊れてしまいそうで、きっと怖いんだろうな。
何よりも、完全に人を信用することもできなくなっているんだろな。
いくら俺が傍にいて、星南を支えていくと伝えても、きっと星南はどこか俺に一線を引いてしまう。
言葉や行動で示したとしても。
心に高い壁を作って、隠れてしまう。
そんな星南の様子を見ていたから、こうして少しだけ俺を頼りにしてくれたことがたまらなく嬉しい。
頼まなくても、お前のそばにいるのに。
星南を起こさないように、俺は星南のベッドから出る。
さすがに、俺が一緒に寝ていると見回りに来る看護師に怒られるよな…。
近くにある椅子を、星南のベッドサイドに近づけ腰を降ろした。
「随分とはまってるわね。」
星南の手を握り、眠りを見守っていると小声で話す声が聞こえ振り返る。
「姉貴、何してんだよ。」