金木犀
「湊…」
「ん?」
「私、いいの?」
「えっ?」
「湊のこと、まだ完全に信用出来ると思えない。
前にも言ったけど、まだ簡単に頼ることも信じることも出来ないかもしれない。
それでも、いいの?」
湊は、私の言葉を聞いて優しく微笑んでくれた。
「それでもいい。
星南が、そばにいてくれれば。
一緒に暮らしていくうちに、少しずつ俺の事を知ってほしい。
だけど、これだけは忘れないでくれ。」
「なに?」
「どんな時も、俺は星南の味方だから。何があったとしても、星南から離れることはない。」
真剣な表情で、1ミリも外さない視線で話す湊を少しずつ信じてみようと思った。
人の愛情なんていらない。
そう、思っていたけど…
とっくに、限界は迎えていたのかもしれない。
1人で生きていくためには、誰かに頼らなくても生きていくことができる力を身につけていかないといけないって思っていた。
それでも。
虚しさだけが心の中に募っていた。
心に空いた穴が埋まることなんてなかった。
「ありがとう。」
湊の話す言葉は、決して無責任ではないということがわかる。
「星南。」
「…それより、私。いつ退院できるの?」
退院…できるんだよね?
「そうだな、星南はいつがいい?」
「なるべくなら、明日とかがいいけど…。だけど、それはさすがに無理でしょ?」
「明日だな。いいよ。俺が退院の準備するから。
看護師には、俺から伝えておく。」
「本当?」
「ああ。可愛い星南の頼みだ。明日の朝退院しよう。
俺も、ちょうど明日は休みだから。
今日はこの部屋に泊まっていく。」
「えっ?
大丈夫なの?」
「何が?」
「いや、一応。医者と患者っていう関係なわけで…。」
「大丈夫。星南は、俺の親戚の子で通っているから。」
最初に診察をした日のことを思い出した。
たしかにあの時、湊はそう話していたよね。
それに前にも、湊と一緒に屋上で満天の星空を眺めていた事もあったよね。
「…今更だね。」
「そうだろ?
だから、何も心配せず星南はゆっくり休みな。
今は休むことが星南の大きな仕事だからな。」
そう言って、湊は私の頭を優しく撫でてくれた。
「…部屋の明かり、消してくれる?」
「ああ。」
手に湊の温もりを感じながら、私は深い眠りへ落ちていった。