金木犀
ーside 湊ー



食べた量の方が少ないけど、入院をしていた時よりは食べてくれた。



きっと、星南の胃の容量は少ないんだろう。



入院していた時に、星南は吐き気止めと胃の痛みを抑える薬を頻回に内服していた。



食事を、多く食べられたと思うと星南は決まって胃が重いと話していた。



そんな星南を見て、きっと胃があまり強くないんだろうと予測できた。



元々、体が小さい星南にとっては体重の管理を慎重にやっていかないといけない。




だから、星南には食事を抜いたりしてほしくないしできれば3食ちゃんと食べてほしい。




「湊、胃薬とかってある?」



「あるけど、また胃もたれしたのか?」



「うん。」



そう言って、星南は俯いてしまった。




「吐きそうな感じはしてない?」



「うん。」



俺は、星南に胃薬を渡すと星南は苦い表情をして飲んでくれた。



「少し、落ち着いてからお風呂に行きな。」




「そうする。」



そう言って、ソファーの背もたれに寄りかかった彼女の隣に、俺は腰を降ろした。





「ねぇ、湊。」




「どうした?」




「いや。ありがとう。」




「えっ?」




「こんなに、穏やかな夜。久々だから。」




そう言って、星南は寂しそうに笑い俺から目を逸らし俯いていた。




星南はいつも、ご飯を食べさせてくれる相手を探していた。




体を重ねる関係の男性を。




きっと、星南が選んだ生きる道であったとしても。




苦しい思いがあったんだろう。




俺は、そんな星南の1番身近な存在でありたいと思う。





「星南。


こういう、些細な時間を大切にしていこう。



俺にとって、星南がそばにいてくれる以上に幸せなことはないんだ。




何気ない時間が、俺にとっても幸せな時間なんだ。」





あんなに、遠かった彼女の存在が今は身近な存在になっている。




この温もりは、一生離さないと決めたから。




だから、必ず何があったとしても守り抜いてみせる。




星南と出会った時から、星南の全てを受け入れたいと思っているから。




「湊…。」




あぁ…。




またか…。




時々こうやって、星南は涙がこぼれそうな瞳で俺を見つめてくる。




俺をまっすぐ見つめる視線。




伏せ目がちに、俺を見つめる表情。




今、星南は何を考え悩んでいるのか。




全てを吐き出してくれれば楽になれるのにな。




星南が、自分に縛り付けた心の紐を緩めてくれない限りは、星南の本音を聞くことはできない。




星南の心は、深く傷つけられてきた。




簡単に、人を信用出来なくなっている星南にとって心を許すことは決して簡単なことではないだろう。




「このまま…。」




「ん?」




「このまま、湊のそばにいたい。


私、この先も湊のそばにいたい。」




そう言って、星南は俺に抱きついていた。




星南の体を抱き上げ、俺は星南と向かい合う形で膝の上に座らせた。




星南の腰を引き寄せてから、そっと星南に唇を重ねた。
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