金木犀
ーside 星南ー



誰かの傍にいたい。



今まで、そんな感情を抱いたことなんて1度もなかった。



誰かに縛れること、支配されることが嫌だった。



それなのに、私は今湊のそばにいたいと思う。



「ごめん…。湊…。忘れて…」



そう、言いかけて湊は私の頬に手を添えてキスを落とした。




次第に、深くなっていくキスに体中が熱くなっていく。




「星南。」



「湊…。」



「そこまで言われて、忘れられると思うか?」



「だけど…。こんなの…。


そんなこと言われたら、湊も困るでしょ?」




傍にいてほしいなんて、まるで湊の心を束縛しているのと同じ。



あれほど、嫌だったことを私は湊にしているのかもしれない。



言葉は、1度外へ出したら取り消すことなんてできない。



そんなこと、分かっていたはずなのに。



「ごめん、湊…」




「どうして、謝ってるんだ?


星南、悪いことなんて何もしてないだろう?」




「えっ?」




「安心しろ。


俺は、頼まれなくたって星南のそばにいる。」




「湊…」



そばにいてほしい。



今まで、そんなこと誰かへ伝えたことなんてなかった。



だけど。



いいのかもしれない。



誰かを必要として、誰かに頼って生きていくことも。



「湊…。ありがとう。」




心の中にあった罪悪感をかき消していくように、湊の言葉に私の心は晴れやかになっていった。




「素直に嬉しいと思うよ。


ここ数日で、少しずつ星南が俺の事を頼ってくれて。


それって、少しでも俺の事を信じてくれてるってことだろう?


星南に頼られることはすごく嬉しい。


だからさ、これからも俺の事を頼って。」




「ありがとう、湊。」



「こちらこそだよ。星南。」



1度離れた私を、湊は再び優しく抱き寄せてくれた。



「さあ、星南ちゃん。そろそろ、お風呂に入らないと。

それとも、距離が縮まったって事で一緒にお風呂に入るか?」



冗談交じりに、楽しそうに笑う湊。



「もう!せっかく湊のこと、見直したと思ったのに。」



私は、湊から離れ立ち上がった。



いきなり立ち上がったからか、急な目眩が私を襲った。



「星南。いつも言ってるだろう?

急に立ち上がったりはするなって。」



湊が、抱きとめてくれたおかげで倒れずに済んだ。



「湊が変なこと言うからでしょ?」



「悪かったって。」



目眩が収まってから、私はお風呂へと向かった。
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