金木犀
ーside 湊ー



ここ最近の星南は、出会った頃よりも少しずつ心を開いてくれている。



俺を頼りにしていることが素直に嬉しかった。



だけど…。



星南に打ち明けるべきなのか。



退院する数日前に、ある人から連絡を受けていた。



その、電話の相手は星南の兄と名乗る人物。



詳しく、星南の家族構成を聞いていないからそこら辺のところはよく分からないけど…。



星南が、入院した時も緊急連絡先は俺であってその他に連絡が取れる人はいないと星南は話していた。



周りに頼れる大人がいなかったから、星南は今まで1人で生きてきたんだよな。



身内はいないはずの星南…。



あれは、悪戯だったのか?



星南のことを知っている誰かからの連絡だったのだろうか。



どっちにしろ、星南に確認するべきだよな。



星南に、家族としての記憶があるなら…。



「湊。」



「星南。」



「どうしたの、ぼーっとして。」



星南は、そう言いながら俺の隣に座った。



「なあ、星南。」




「何?」




「星南は、家族の記憶があるか?」



俺の質問に、スマートフォンを触っていた星南の手が止まった。



「どうして、そんなこと聞くの?」



「星南に、話さないといけないことがあるんだ…」




「私は、家族なんていない。」




「星南、落ち着いて…」



「湊に、話すことなんて何も無い!」




「星南!」




星南は、俺の手を振り払い部屋に走って行った。




不覚だった…。




まだ、家族の話をするのは星南にとって苦痛なはずだよな。




もう少し、星南との信頼関係を築いてから話すべきことだったのかもしれない。




予想以上の星南の反応。




俺の話に、聞く耳を持たず全否定をする行動。




心に深い傷を負えば負うほど、その傷に触れられることはたまらなく苦しいはずだよな。




たとえ、心を許した相手であったとしても。




肝心な星南の気持ちに、俺は気づいていなかったのかもしれない。




最初から、闇がある子っていうことは分かっていた。




星南に、詳しく話は聞いていないけど。




最初に出会った時から、星南は人を信用していなかった。



そんな星南が、俺を頼りにしてくれているからというだけで自惚れていたのかもしれない。




頼りにしてくれてるからといって、完全に信用してる訳ではないよな。




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