金木犀
夜が明け、私は重い体を何とか起こし、湊のいるリビングへと向かった。
結局、昨日は一睡もできなかった。
「星南、ちょっとここに座って。」
湊に促されるように、私は湊の隣に腰を降ろした。
「星南。とりあえず、温かい飲み物でも飲むか?」
「うん。」
湊は、私に温かいミルクティーを入れてくれた。
「星南、今日は俺も休みだし学校も休みだろう?
少し、気分転換しようか。」
「気分…転換?」
「一緒に、ドライブに行こう。まだ星南とは1回も遠出していなかったからな。
星南、今行きたいところはあるか?」
湊は、私の頬に手を添えてそう話した。
少し今の環境から離れて、今起きてる出来事を客観的に捉えて考えてみよう。
私も、今は気分転換したい。
「海。」
「海?」
「うん。私、海に行きたい。」
「了解。じゃあ、早速出かけようか。」
車に揺られること1時間。
静かな海岸沿いに着いた。
砂浜にシートを敷き、湊と他愛のない会話をしながらただ流れゆく漣を眺めていた。
湊は、兄のことについて何も触れて来なかった。
不自然に、会話を取り繕ったりもせず。
湊はいつでも、私が決断するまで待ってくれる。
私のペースで、前に進めるって信じてくれているからだと思う。
私の気持ちをいつも考え支えてくれる湊。
私を信じてくれる湊。
もう、結論は出ている。
こんなにたくさん悩んでいるのなら。
兄と会うべきだと、知らせてくれているのかもしれない。
会おう。
会って、話をしてみよう。
何があったとしても、私には湊がいるから。
どんな結果になっても、私の傍を離れないと言ってくれる湊がいるから。
私はもう、何も怖いことは無い。
「ねえ、湊。」
「どうした?」
「私、会ってみる。」
「星南…。」
「兄に会って話してみるよ。」
ズルズルと考えていても仕方無い。
心にこんなに引っかかっているから、兄に会わない道を選んだとしたら、きっと私はずっとこのモヤモヤを抱えて生きていかなければならなくなってしまう。
そんな気持ちを抱えながら、湊のそばに居るのは申し訳ないから。
湊と過ごす時間が、そんな心のモヤモヤで邪魔されたくもない。
「星南。
決断してくれてありがとう。
俺は、星南を支えていく。
どんな事があっても、守るから。」
前の私なら、きっと兄に会うことはなかったと思う。
ずっと、兄や母から逃げていたと思うから。
自分の正直な気持ちと向き合うことも無く過ぎていたと思う。
心の奥底にまだ、兄や母がいる。
だからこそ、湊から兄の話を聞いて悩み続けていたんだ思う。
それにきっと、前を向けるようになったのは湊のおかげだと思う。
それから、湊と一緒に外で食事をして色んな景色を見て、大切な湊と過ごす家に帰って来た。