こんな恋の話
入学式から2日後。



優太に連れられて、未散はバスケ部の部室に向かっていた。 


「行ったらさ、びっくりしたよ。だって未散と背がおんなじぐらいの人ばっかなんだぜ!」 


「当たり前じゃない高校生なんだから…ってより、優太が小さすぎるのよ」  


「…うるさいな。今から伸びるんだよ。見てろ、絶対そのうち未散よりでかくなってやるからな!」 


「はいはいわかりました。じゃ、頑張って15センチぐらい伸ばして下さい」 


言いながら未散は部室のドアをノックした。 


優太のほうはというと、くっそー180センチになって未散を見下ろしてやる、とぶつぶつ言いながら男子バスケ部の部室へ歩き出した。 


そんな優太を未散はちょっと鼻で笑って見送り、失礼します、とドアを開ける。

その瞬間、 


「いらっしゃーい!!」 


黄色い声が部室に響く。 


「吉岡未散さんだよね?お待ちしてました、ようこそ我がバスケ部へ!!」 


一人の先輩が目をまあるくして立ち尽くす未散の手を取りぶんぶんと上下に大きく振る。 


「あの、すみません、どうして私の名前を…?」


自己紹介も何もしていないのに、まるでずっと前から自分の事を知っているかのような歓迎を受けた未散はちょっとだけ目を白黒させる。 


「県内の高校の女子バスケ部員で吉岡さんを知らない人や吉岡さんを欲しがらない学校は多分ないと思うよ?」 


その身長が一人いたら違うもの、さっき未散の手を取った先輩が未散の質問に答える。 


確かに中学生の段階で170センチ以上の身長を持つ女子バスケットボールプレイヤーはそういないので、未散も多少納得する。 


しかし、「デカい」というだけでこんなにも人に喜ばれたことは初めてで、未散はかなり気持ちがこそばゆい。 


「…で、今日はどうしたの?さっきはついつい『いらっしゃい』なんて言っちゃったけど、それで正解だった?」 


「あ、ハイ、よろしくお願いします!」 


未散が頭を下げると、女子バスケ部に再び歓喜の叫びが沸きあがった。
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