憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
ユーリ様とジフロードの関係が始まったのは半年ほど前のことらしい。ユーリ様が国王に即位して、ジフロードが宰相として就いて間もなくのことだった。
もともとジフロードは代々宰相や大臣を務める者を多く輩出している家柄の出身で、彼の父も先代の王陛下の時に宰相を務めていた時期があったのだという。そして彼の父が宰相だった時期というのが、ユーリ様が生まれた頃だったのだ。ユーリ様を王子として育てることを国王夫妻が決断した際にもそれを見守っていたという。彼が政治家として国王に仕えるようになり、やがてユーリ様の御代では有力な腹心となる事が決まった際、お父上から真実を告げられユーリ様に課せられた運命を知った。
「初めは、なんて気の毒な方だと同情いたしました。ですから、どうにかお守りしてお支えしていこうと心に決めたのです。」
そう言って、ジフロードは赦しを乞うように、ユーリ様に視線を向ける。
「ですが、陛下はそんな重責を負いながらも、いつも明るく前向きでいらしゃった。そして良き王太子、国王であろうと気を張っていらした。私はその姿を見ている内に陛下に惹かれました。なんてお強い方なのだろうと愛おしく思い、同時にこの方のお心が少しでも楽になれる事を願いました。」
「ジフっ…」
まるで愛の告白のように、陛下の目を見ながら話すジフロードに、ユーリ様がわずかに声を詰まらせた。ジフロードを見上げる彼女の顔は、きちんと恋をしている女性の顔だ。
「きっかけは、私が誘ったの。ジフのその視線には少し前から気がついていて、ちょっとした遊びのつもりだったのだけど、体を重ねる内に、彼の思いの深さや優しさに触れて、女として扱ってもらえる事が幸せで、嬉しくて、手放せなくなってしまって」
本当はアルマと結婚する時に、この関係を解消しようと思っていたのに、出来なくて…こんな風に見せる事になってしまってごめんなさい。
そう言ってユーリ様は深々と頭を下げた。
その姿に私は反射的に首を振って腰を浮かせる。
国王が簡単に他者に頭を下げる事はあってはならない。それが王妃であろうともだ。
そんなことを…いや、そこまでしてもらうほどの事ではない。
「謝っていただく事ではありません!」
そう言って、私は席を立つとユーリ様の前に膝をついてその手を握る。
「私がショックを受けているのは…その…お二人の現場を見てしまったからであって、決してお二人の関係に嫌悪を抱いているわけではありません!」
そう言って、私を驚いて見下ろす2人を見比べる。じわりと、一度引っ込んだ涙がまた戻ってくる。そんな私の頬にユーリ様が慌てたように手を添える。
「ごめん、アルマ!そんなにショックだったんだね。驚かせてごめん」
「ちがっ!違うんです~私嬉しいんです~!!」
そこまで言うと、涙がブワリと溢れてきて、止まらなくなってしまう。
あぁだめ、これでは説明ができないと思いながらも、もう止める事はできない。
「うれ、しい?」
当然私の言葉の意味を図りかねるユーリ様は首を傾けながら、私の涙を、長くて美しい指で払ってくれる。
「だって!っユーリ様がっ女性って知ってからっ心配だったんですっ!ユーリ様のっ女性としてのっ幸せって無いのかなぁってぇぇ~!!」
なんとかしゃくり上げながらそれだけ話すと、そばにやってきたジェイドからハンカチを受け取って、顔を埋めた。
今日の私は、色々なものを見聞きしたせいで随分と情緒が不安定になっているらしい。
ヒクヒクとしゃくりあげながら。ジェイドの香水の香りが鼻をくすぐると。どこか少しだけ落ち着いてきた。先程はこの香りに、心を乱されたというのに不思議だ。
でも、本当に私は嬉しくて安心したのだ。
そりゃぁ見せられたものはショックだったけど…。
だってユーリ様は産まれた時から、女性としての性を奪われて男性として生きることを強いられているのに、それなのに男性にもなりきれない。お心はしっかり女性なのに、好きな方に想いを寄せることも、子供を持つことだって許されない。ユーリ様の人生はただ国のためにあるべきで、それ以外は認められないと言われているようで、それはあまりにも残酷だと怒りを覚えながらもこの想いをぶつける所もなかったのだ。
「だから、嬉しくて…ユーリ様に愛する方がいらして、女性としての幸福を感じる事があって!!良かったなぁって思ったら、なんだか涙が出てきてしまってぇ~」
ハンカチの中で言葉を必死に紡ぐ。
くぐもっているけど、きちんと聞こえてはいるだろうと思った。
そうすると、唐突に身体を強く引かれた。
バランスを崩しかけて手を出しかけて、その身体を柔らかいものに包まれる。ぎゅうっとその柔らかいものは、私を抱きしめると耳もとで「ありがとう」と囁いた。それはすこし湿っぽい、ユーリ様のお声でもう一度言った「ありがとう」の言葉はぐすんと鼻をすすりながらだった。
結局、私たちはその場で抱き合いながら、わんわん泣いて少し落ち着いた所で、ソファに戻された。今度はジフロードが入れ直したお茶を飲みながら、ケーキを摘む事にした。
「こんな事なら、早めに言っておけばよかったね。」
まだ鼻声のユーリ様が眉を下げるのに、私はブンブンと首を振る。
「私に配慮して下さったのでしょう?私がユーリ様に失恋したばかりだったから」
自分で言って恥ずかしくて、私は手元の紅茶に目を伏せた。
はぁっとユーリ様が大きく息を吐いた。
「本当に、アルマには敵わないなぁ。」
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