憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
ジフロードがそろそろ帰宅する時間と言う事もあり、ユーリ様とジフロードは執務室へ戻って行ってしまった。
驚くべきというか、当然ではあるのだが、名門政治家の嫡男であるジフロードには家庭がある。と言っても、奥方は2年ほど前にご病気で亡くなられており、ご自宅には10歳と5歳のご子息が居るだけだと言う。だからどれほどお仕事が遅くなろうと、ユーリ様と甘い時間を過ごそうとも必ず自宅に戻り、子供達との時間を取るようにしているのだという。
「アルマは、もっと怒ってもいいんだぞ?」
ユーリ様の私室に下がっていく2人の背中を見送っていると、一緒に残されていたジェイドが、少し不満そうな顔で言い聞かせてくる。
「怒る?なにを?」
ジェイドの言いたいことがよく理解できなくて首を傾けると、彼は少し呆れたように息を吐く。
「あまりにも都合が良すぎるだろ?散々惚れさせておいて結婚したら、実は女でした!でも子供は作ってくださいって好きでもない男をあてがわれたのに、自分は好きな男に抱かれているんだぞ?腹立たないのかよ?」
苛立っているような、拗ねた口調でジェイドの言う言葉を、私は頭の中で整理する。
うーん、たしかに都合がいいと言えばいいかもしれないけれど、正直何故だかその発想は無かった。
「たしかに、そう言う見方もあるけれど…でもだからと言ってユーリ様にそれすらも我慢しろなんて言える?私はユーリ様が…一度でも好きになった方が少しでも幸せになってくれた方がうれしいわ?」
そりゃあ確かにユーリ様が男性で、他に好きな人がいると言われたのならば私は激しく落ち込んだに違いないけれど。最近の私にとってのユーリ様は、以前の素敵な殿方で理想の旦那様というよりは、頼もしくも美しいお姉様のような存在になっているのだ。
姉妹が好きな人と結ばれることに嫉妬も嫌悪もわかない…そんな感覚だったのだが…。
あぁ、そうか。
私はハッとしてジェイドを見る。私が、というより、それはジェイドにそうした思いが強いのではないかと…気づいてしまった。
だってそうじゃない?ジェイドはユーリ様の代わりに私(好きでもない女)との間に子供を作ることが義務なわけだ。それなのにユーリ様は好いた相手と結ばれている。それは確かに面白くないのかもしれない。
いや、むしろ彼にも心に決めた人がいるのかもしれない。早くその方と結ばれたいのに私の存在が邪魔をしているから…。
そこまで考えて、なぜかジワリと涙が浮かんできそうになって、慌ててグッと喉に力を込めた。
「全く、本当にユーリじゃないけどアルマには敵わないな。」
大きくため息を吐いたジェイドが困ったように笑った。
「嫌な事を聞いて悪かった。ちょっと心配だったんだよ。お前があまりにもここまで全ての事を素直に聞き入れて、飲み込んでいるからさ。本当だったらもっと怒ったり嫌がったり、嘆いたりしてもおかしくないのにさ。確かにユーリには言い辛いかもしれないけど、俺にくらいは当たってもいいんだからな?」
「そんな怒りなんて…感じたことがなかったから…ごめん。でもジェイドをなるべく早めに解放してあげないととは思っているのよ!」
「?俺を?解放?何からだ?」
慌てて言い添えた言葉にジェイドが眉を寄せて首を傾けた。うーん…なんと説明していいのやら。
「えっと…私から?あなたの義務から?っていえば良いのかな?なるべく早く世継ぎを生んで、ジェイドが好きな方と心置きなく添えるようにはしたいと思っている…から?」
あなたの気持ちも理解しているからとどう伝えるのがいいのか、何とか言葉をつないで説明するけれど、なぜか説明して行く内に、ジェイドの眉がピクリと動き、眉間にしわが寄って、不機嫌な顔になっていくのが分かった。
「えっと…なんか怒ってる?」
上目遣いに見上げて、恐る恐る聞いてみる。
「っ…はぁ~」
ジェイドは盛大な溜息と共に、きっちり整えられて後ろに流した自身の髪をぐしゃりとつかんだ。
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