憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
ユーリ様が完全に復活されたのは、それからひと月ほど後の事だった。二人で日課にしている昼食後の散歩を再開して数日。表向きは妊婦の私に合わせるようにゆっくりと歩きながら、他愛もない話をしていると。
「これはこれは、国王陛下、王妃陛下仲睦まじい様子でなによりでございますなぁ」
そう声をかけられて、私とユーリ様は声の方向を、静かに振り返った。
「これはカナック侯爵と…レイリーか!?」
その場ににこやかに立つ白髪の男性の姿と、その一歩後ろで御令嬢らしい礼を取っている若い女性を見て、ユーリ様が驚いた声を上げる。
「はい陛下、ご無沙汰しておりますわ。」
レイリーと呼ばれた御令嬢はゆっくり顔を上げるとブルーの美しい瞳を細めて可憐に微笑んだ。
「つい先日隣国への留学を終えまして戻ったところです。」
そう説明する侯爵の言葉に、そう言えば確かカナック侯爵家には博識で勉学に秀でた御令嬢がいらっしゃると聞いた事があった。あまり社交界には出ず、留学で他国に行ったきりだと聞いていたのだがそれが彼女だと言う事らしい。歳の頃は私より少し若いだろうか。まだ少し少女らしさを残した可憐な佇まいは、社交界で見かけた事はない。
カルナック侯爵家と言えば先先代の国王陛下のお妹君の降嫁先のお家。そうであるならばユーリ様にとっては彼女は再従妹に当たるらしい。
「そうか!異国はどうだった?」
「ふふっ。どの国も文化が違いそれはそれは興味深く勉強になりましたわ」
ワクワクとしたお顔でユーリ様が尋ねれば、彼女も目を輝かせてそれに応じる。もともとユーリ様は外国の文化に興味が強く、もし王女として育てられていたのなら、若い頃には留学がしたかったのだとこぼしていた事があるほどだ。レイリー嬢の話はとても興味深いだろう。
「こんなところで立ち話もなんです。お座りになりませんか?」
話が長くなると思った私は、近くの四阿を指す。調子がよくなったとはいえユーリ様は身重の身だ。あまり立たせておくのは良くないと思ったのだ。
「そうだね。大事な身体の君を立たせておくわけにはいかないしね」
私の意図を理解したユーリ様が、労るように私の手を握ると、侯爵親子にも四阿を指した。
レイリーは話も上手く、私もユーリ様も知らない文化の話に興味深々で、短時間ではあったものの有意義な時間を過ごした。
あっと言う間に午後の執務の時間になってしまい、物足りない気分でいると
「わたくし、陛下にあちらの事を色々とお伝えさせていただきたくて、お忙しいとは存じますが、ぜひお時間を作っていただけませんこと?」
とレイリー自身から嬉しい申し出があった。
「それは嬉しいなぁ。アルマも興味があるだろうし、2人の都合の合う時に是非聞かせていただきたいね」
同意を求めるようにユーリ様に視線を向けられて、私もにこりと頷いた
「王妃陛下もですか!?」
先程までニコニコと話を黙って聞いていた侯爵が驚いたように声を上げる。
まるで私がそこに含まれるのは想定外というような反応に、少しばかり何かが引っかかる。
「あぁ、アルマは外国の文化にも興味があって、ここ数日まで悪阻で伏せていたし、何か心が明るくなる話しでもと思っていたからちょうどいいよ」
気にした様子を見せないユーリ様は「そうだよね?」と優しい笑みを浮かべて私を見つめる。
その瞳の奥に何かしらの含みを感じる。
「えぇ、ずっと籠っていたから、楽しみだわ!」
満面の笑みを張り付けて小首を傾げれば、レイリーは「もちろんですわ!」と喜び、隣の侯爵はなぜか笑顔を引き攣らせていた。
「ではまた日程など調整をしてご連絡いたしましょう」
「あぁ!頼むよカルナック卿」
最後は、なんとか約束を取り付け、侯爵親子と別れた。
2人で並んで宮内に戻り、執務室へ続く階段を登るとユーリ様が大きく息を吐いた。
「話を合わせてくれてありがとうアルマ」
その言葉に私は軽く首を横に振る。
「カルナック卿が何かを企んでらっしゃる?」
そう問えば、ユーリ様は自身の顎に手を当てて「恐らくね」と頷いた。
「そこまで熱心ではないとは思っていたが、一応カルナック侯爵家も革新派なんだよね。
どうやらレイリーを呼び戻したのは、このためだったか」
ユーリ様の言葉に私は首を傾ける。
「私が外国に興味が強いのはまぁ、それなりの人間は知っているところだからね。外国で見聞を広げて戻った再従妹の話に食いつくだろうとレイリーを餌にするつもりだったらしい。
私と二人にして既成事実でもでっち上げて、彼女を公妃にとでも考えているのだろうな」
ユーリ様の言葉に私は理解できたと頷く。
「だから侯爵は私が同席する事にあんな反応をしたのね。いいのです?懐に入れてしまって?」
なんなら今後の話に繋げない方が良かったのではないか?そう問えばユーリ様は小さく首を振る。
「あまり無碍にして侯爵を敵に回すのも得策では無いしね。まぁ彼らの魂胆を探るいい機会だと思っておこう。数回付き合えば気も済むだろうしさ」
敵を排除するだけでなく時には飛び込んでみないと!と戯けた所で、私達の戻りが遅い事を心配したジフロードがやって来て、その話はそこまでとなった。
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