憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「ユーリ様!覚えていらして?昔このお庭で兄が池に落ちて!」
「あぁ、覚えているよ。あの時は驚いたよ」
私を挟んで繰り広げられる昔話は、正直聞いているだけで、なんの楽しさも感じない。
というのも、先程からレイリーが話す内容は、彼女とユーリ様のみが知る話題であり、私自身はそのお兄様がどんな人なのか、なぜ池に落ちたのかも知らない話なのだ。
要は私は蚊帳の外。
楽しそうに話す夫と幼馴染の令嬢を眺めながら、淡々と紅茶を飲むしかやる事は無い。
これが彼女の狙いである事は、最初から理解していたので驚きも、腹が立つ事すらしない。
レイリーの狙いは、私とユーリ様の仲に波風を立てて、そしてその間に自分が入り込もうというものだった。留学中の話や彼女の見聞を聞けば、たしかに聡明だし話も面白い。頭の回転も早いタイプだ。留学さえしていなければおそらく、王妃候補の中に入っていただろう。
ゆえに公妃にしたらとんでもない敵になることはわかりきっている。
問題はどう諦めさせるかだけれど、私もユーリ様も今日は様子見と言う事で、彼女の出方を探っている。
私自身があまりにも彼女と近づき過ぎれば、王妃とも上手くやれるとますます彼女を公妃に推す声が大きくなるだろう。とはいえまともに牽制すれ王妃の器が小さいと言われかねない。早めに片付けないと、ユーリ様の出産が迫っていくという不都合もある。
とにかく、このレイリーという娘がどんな人間なのか知る必要がある。
どこかで尻尾を掴めないかしら?込み上げてくるため息を噛み殺して、私はぼんやりと楽しそうな二人の会話を見守り続けた。
レイリーとのお茶の日から、3日後。この日は親友のクリスティンが王宮を訪ねてきてくれた。
私の結婚式から半月後、彼女は無事に出産を終えて、元気な男の子の母となっていた。
本来であれば、私が出向いてお祝いをしたいところだったけれど、流石に王妃が出向くとなると予算もかかる上、警備の関係上、彼女の婚家にも大きな負担となることが予想された。
そのため、産後しばらく経つまで待っていたのだけれど、そうしたら今度はユーリ様の妊娠で、代わりに妊娠している事になっている私は引きこもる事になってしまったのだ。
用意したベビー用のベッドですやすやと眠る、クリスティンの息子、ヴィゴを眺めていると自然と頬が緩む。
「ふふっ、アルマももうすぐよ!言っておくけど、出産ってなかなか大変よ?」
「そ、そうなの?」
驚いてベッドから視線をクリスティンに向ければ、彼女は困ったように眉を下げた。
「もう身体はボロボロ!最初はお世話を全て自分でと思ったけど、とてもじゃないけど身が持たなくて、乳母を雇ったわ」
それは大変だったのだろうと思いながら、正直私自身にはいまいちピンと来ない話で、頭の片隅ではユーリ様は大丈夫なのだろうか?と少し心配になった。
おそらくそんな私の空気が伝わったのだろう、クリスティンが、呆れたように息を吐く。
「もぅ!他人事じゃないんだから!あなたも数ヶ月後に経験するのよ!」
「あはは、そうよね。いまいち実感がなくて」
そう笑えば、クリスティンが肩を竦めた。
「まぁでも、私と違って貴方には大きなプレッシャーがかかるのだし、それくらい脳天気のほうがいいのかもしれないわね」
その言葉に私も同じように肩をすくめる。確かに、本来なら国王の跡取りを産むのだから、さまざまなプレッシャーがかかって仕方ないはずなのだ。しかし今の私…というより私達の頭にはいかに周囲にバレずにユーリ様の出産を迎えるかという事ばかりで、そこまで想いが行き着いていないのが正直なところだ。
「ねぇ。それより聞いたわよ?公妃を娶る話が出てるって!」
少しだけ声のトーンを落としたクリスティンが窺うように私の顔を覗き込んでくる。
その表情はどこか心配そうな色を含んでいて。どうやら彼女のところまでそんな話が噂になっているらしい。これはなかなか由々しき事だ。
私は努めて明るく笑いながら、顔の前で手を振る。
「ちがうのよ~!ユーリ様にはそんな気一切ないのよ!ただ革新派の一部が、私の妊娠中がチャンスだと勝手に思っているらしくて…。勝手に自分の家の令嬢を近づけて来ているだけなのよ~」
そう言って、私は最近あったチェルシー妃とレイリーの話をクリスティンに話して聞かせる。
「なるほど、それは面倒な話ね。というより失礼極まりないわ!ただでさえ妊娠中は精神的にも不安定なのに、そのタイミングで夫に妾ができるなんて!アルマの事を何にも考えてなさすぎるわ!もし陛下も了承しているのだったらと思ったら、腹が立っていたのだけど、そうでないなら良かったわ」
怒りながらも、安心したわと息を吐いたクリスティンに私は眉を下げる。
「心配かけてごめんね」
「アルマのせいじゃないわ!だいたい革新派のやり方は前々から気に入らないのよ!慰霊祭の時の事だって結局あちらの陣営の人間なのでしょう?節操がないのよ!」
なおも怒っているクリスティンに私は苦笑する。
「なんとか諦める方法ないかと思っているのだけど」
あのお茶の日から、何か打開策はないかとユーリ様と話してはいるのだけれど、正直現状で打てる手は無い。
ただユーリ様ご自身が、「今は公妃を娶る気はない」と言い続けるしかない。ただ、私達が気づかない内に外堀が埋められていく事だけは避けなければならないとは思っている。
私の呟きに、クリスティンは頬に指を当てて「カナック侯爵家のレイリーねぇ」と呟いた。
何か接点があるのだろうかと首を傾けていると、クリスティンが徐にニヤリと笑った。
長年の付き合いから、彼女がこうして笑う時は何か悪巧みを思いついた時だ。なんなのだろうかと、身を乗り出した私にクリスティンは、声を抑えつつも楽しそう口を開いた。
「恋をさせたらいいかもしれないわよ?」
「こ…恋?」
「あぁ、覚えているよ。あの時は驚いたよ」
私を挟んで繰り広げられる昔話は、正直聞いているだけで、なんの楽しさも感じない。
というのも、先程からレイリーが話す内容は、彼女とユーリ様のみが知る話題であり、私自身はそのお兄様がどんな人なのか、なぜ池に落ちたのかも知らない話なのだ。
要は私は蚊帳の外。
楽しそうに話す夫と幼馴染の令嬢を眺めながら、淡々と紅茶を飲むしかやる事は無い。
これが彼女の狙いである事は、最初から理解していたので驚きも、腹が立つ事すらしない。
レイリーの狙いは、私とユーリ様の仲に波風を立てて、そしてその間に自分が入り込もうというものだった。留学中の話や彼女の見聞を聞けば、たしかに聡明だし話も面白い。頭の回転も早いタイプだ。留学さえしていなければおそらく、王妃候補の中に入っていただろう。
ゆえに公妃にしたらとんでもない敵になることはわかりきっている。
問題はどう諦めさせるかだけれど、私もユーリ様も今日は様子見と言う事で、彼女の出方を探っている。
私自身があまりにも彼女と近づき過ぎれば、王妃とも上手くやれるとますます彼女を公妃に推す声が大きくなるだろう。とはいえまともに牽制すれ王妃の器が小さいと言われかねない。早めに片付けないと、ユーリ様の出産が迫っていくという不都合もある。
とにかく、このレイリーという娘がどんな人間なのか知る必要がある。
どこかで尻尾を掴めないかしら?込み上げてくるため息を噛み殺して、私はぼんやりと楽しそうな二人の会話を見守り続けた。
レイリーとのお茶の日から、3日後。この日は親友のクリスティンが王宮を訪ねてきてくれた。
私の結婚式から半月後、彼女は無事に出産を終えて、元気な男の子の母となっていた。
本来であれば、私が出向いてお祝いをしたいところだったけれど、流石に王妃が出向くとなると予算もかかる上、警備の関係上、彼女の婚家にも大きな負担となることが予想された。
そのため、産後しばらく経つまで待っていたのだけれど、そうしたら今度はユーリ様の妊娠で、代わりに妊娠している事になっている私は引きこもる事になってしまったのだ。
用意したベビー用のベッドですやすやと眠る、クリスティンの息子、ヴィゴを眺めていると自然と頬が緩む。
「ふふっ、アルマももうすぐよ!言っておくけど、出産ってなかなか大変よ?」
「そ、そうなの?」
驚いてベッドから視線をクリスティンに向ければ、彼女は困ったように眉を下げた。
「もう身体はボロボロ!最初はお世話を全て自分でと思ったけど、とてもじゃないけど身が持たなくて、乳母を雇ったわ」
それは大変だったのだろうと思いながら、正直私自身にはいまいちピンと来ない話で、頭の片隅ではユーリ様は大丈夫なのだろうか?と少し心配になった。
おそらくそんな私の空気が伝わったのだろう、クリスティンが、呆れたように息を吐く。
「もぅ!他人事じゃないんだから!あなたも数ヶ月後に経験するのよ!」
「あはは、そうよね。いまいち実感がなくて」
そう笑えば、クリスティンが肩を竦めた。
「まぁでも、私と違って貴方には大きなプレッシャーがかかるのだし、それくらい脳天気のほうがいいのかもしれないわね」
その言葉に私も同じように肩をすくめる。確かに、本来なら国王の跡取りを産むのだから、さまざまなプレッシャーがかかって仕方ないはずなのだ。しかし今の私…というより私達の頭にはいかに周囲にバレずにユーリ様の出産を迎えるかという事ばかりで、そこまで想いが行き着いていないのが正直なところだ。
「ねぇ。それより聞いたわよ?公妃を娶る話が出てるって!」
少しだけ声のトーンを落としたクリスティンが窺うように私の顔を覗き込んでくる。
その表情はどこか心配そうな色を含んでいて。どうやら彼女のところまでそんな話が噂になっているらしい。これはなかなか由々しき事だ。
私は努めて明るく笑いながら、顔の前で手を振る。
「ちがうのよ~!ユーリ様にはそんな気一切ないのよ!ただ革新派の一部が、私の妊娠中がチャンスだと勝手に思っているらしくて…。勝手に自分の家の令嬢を近づけて来ているだけなのよ~」
そう言って、私は最近あったチェルシー妃とレイリーの話をクリスティンに話して聞かせる。
「なるほど、それは面倒な話ね。というより失礼極まりないわ!ただでさえ妊娠中は精神的にも不安定なのに、そのタイミングで夫に妾ができるなんて!アルマの事を何にも考えてなさすぎるわ!もし陛下も了承しているのだったらと思ったら、腹が立っていたのだけど、そうでないなら良かったわ」
怒りながらも、安心したわと息を吐いたクリスティンに私は眉を下げる。
「心配かけてごめんね」
「アルマのせいじゃないわ!だいたい革新派のやり方は前々から気に入らないのよ!慰霊祭の時の事だって結局あちらの陣営の人間なのでしょう?節操がないのよ!」
なおも怒っているクリスティンに私は苦笑する。
「なんとか諦める方法ないかと思っているのだけど」
あのお茶の日から、何か打開策はないかとユーリ様と話してはいるのだけれど、正直現状で打てる手は無い。
ただユーリ様ご自身が、「今は公妃を娶る気はない」と言い続けるしかない。ただ、私達が気づかない内に外堀が埋められていく事だけは避けなければならないとは思っている。
私の呟きに、クリスティンは頬に指を当てて「カナック侯爵家のレイリーねぇ」と呟いた。
何か接点があるのだろうかと首を傾けていると、クリスティンが徐にニヤリと笑った。
長年の付き合いから、彼女がこうして笑う時は何か悪巧みを思いついた時だ。なんなのだろうかと、身を乗り出した私にクリスティンは、声を抑えつつも楽しそう口を開いた。
「恋をさせたらいいかもしれないわよ?」
「こ…恋?」