憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
それからしばらくの間、ジェイドの姿を見かけない日々が続いた。
「あれ?アルマここにいたんだ?」
夜も深くなった頃、いつものリビングで読書をしていると、珍しくまだ起きているらしいユーリ様がお部屋から出てきた。
「はい。部屋で読んでいるとどうしても眠たくなってしまうので。ハーブティー飲まれます?」
本を閉じて立ち上がると、ユーリ様は向かいの席に腰かけて、「もらおうかな!」と微笑んだ。
予め侍女達によって出されていたカップにお茶を入れて渡して、2人でゆったりとソファに沈んだ。
「最近、ジェイドに会っている?」
そう聞かれて、苦笑しつつ首を横に振ると、ユーリ様の表情が不審気なものに変わる。
「どうやら最近、あちこちの夜会に出ているみたいなんだよね。もともと社交の場なんて面倒だと思っているタイプなのに、めずらしいと思わない?」
ユーリ様の問いかけに私も頷く。ジェイドが夜会?正直進んで出て行くとは思えないのだ。
「なにかお仕事関係で探らないといけない…とか?」
首を傾けると、ハーブティーをひと口飲んだユーリ様が「うーん」と唇を尖らせた。
「最近軍司令関係でそんな話は上がって来てないし、報告もないけどなぁ」
まだ上げるような段階の話でもないのかもしれないし、今度それとなくジェイドに探りを入れてみるよ。
そう言ってユーリ様は「ご馳走様!」とカップを置くと、「おやすみ~」とヒラヒラ手を振りながらお部屋に戻って行かれた。
ジェイドが、夜会かぁ。
あとに残された私はハーブティーに口をつけながらぼんやりと頭上に垂れ下がったシャンデリアを眺めた。慰霊祭での勇姿や公式行事での凛々しい姿を見た、御令嬢から沢山の結婚を申し込む手紙がとどいていることは聞いている。もしそんな注目の王子が夜会になんて頻繁に顔を出せば、多くの御令嬢達に囲まれてアプローチをうけるに決まっている。
あのジェイドがそんな煩わしい所に行くというのが俄かに信じられない。そこまで考えて、何となく開いていた本を読む気が失せてしまったなぁと息を吐く。
そろそろ寝ようかしら…そう思った時、突然、何の前触れも無く、視界の端に映る景色が動いた。
反射的にそちらに注目して、そしてその理由を理解した。
床がパカリと開いたのだ。そしてそこからゆっくりと黒い頭が見えて。ひょっこりとジェイドが顔を出したのだ。
「あれ?アルマが起きていたのか?」
そう言いながら上がって来たジェイドは、ドレスシャツに身を包んでいて、そして近づいて来ればなんとなく酒の香りがしてくる。
どうやら、今日もどこぞかの夜会に出ていたらしい。
「ほ、本を読んでて」
何故慌てる必要があるのか分からないが、なんとなくやましい気持ちになり、抱えていた本を持ち上げてアピールすれば、彼は「あぁなるほど!」と相槌を打った。
「最近忙しそうね?」
近づいてくる彼にそう言えば、彼は気怠げに後頭部を掻きながらため息を吐くと、テーブルの上のカップに視線をうつす。
「まぁな!今日は飲んで…は無いか!」
どうやら私がまた酔っ払っていないかを心配してくれたらしい。思わず苦笑して、彼を見上げる。
「今日はお茶だけだから、大丈夫よ!それより貴方の方が、随分飲んでるでしょ?」
私の言葉に、一瞬意表をつかれたような顔になったジェイドは、次の瞬間には困ったように眉を下げた。
「そうだな!寝るよおやすみ」
一度だけポンと私の頭に触れるとくるりと踵を返して、下に降りて行ってしまった。
パタリと床が元に戻るのを見届けて、私はほぅっと息を吐く。
なんだか寂しい気持ちが胸をギュウっと掴んで、モヤモヤと嫌な予感だけが残った。
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