憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「なんだか楽しまれている気がするんですけど!」
翌日のティータイム。私はユーリ様に昨晩の事を話す。
「ふふ、あいつにも余裕ができたって事だね!いいことだぁ」
嬉しそうに笑った彼女は、むくれる私を尻目に優雅にお茶に口をつけている。
「ユーリ様、何か知っていますね?」
じとりと睨め付けると、ユーリ様は涼やかな顔で「ん~まぁねぇ」と言うだけで、その先を教えては下さらなかった。
「なんだか、お二人とも意地悪です!」
抗議してそっぽを向いてみるけれど、ユーリ様はひたすらクスクス笑うだけだ。
「まぁ、レイリーに会えばわかるんじゃない?明後日だっけ?」
結局、あまりにも私が拗ねているのを見かねて、最後はなんとなくの道筋を示してくれた。
でも答えではないのだ。本当に姉弟そろっていじわるだ。
実は延び延びになっていた、レイリーとの2回目のお茶の約束が明後日に迫っているのだ。
またあの苦痛な時間に耐えるのかと思うと気が重いのだが、しかしそこでジェイドが何を企んでいるのかわかるのなら、少しだけ早くその日が来て欲しいとさえ思った。


そうしてやってきた2日後、私はレイリーの代わり様に唖然とする事となったのだった。
サンルームにやってきた彼女の様子は至っていつも通りだったのだが…。
「アルマ様は、ユーリ様のどういったところに、ときめかれますの?」
席に座り、話をし始めたと同時に彼女は私に質問を投げかけてきたのだ。
本日も蚊帳の外を覚悟していた私は油断していて口の中にケーキを入れたところで、慌てて飲み込むのに少しむせた。そんな私をみたレイリーが「まぁごめんなさい!じゃあ先にユーリ様にお聞きしましょうかしら」と話をユーリ様に移したのだ。
聞かれたユーリ様はさすがと言うか、にこやかな笑顔を崩さずに、スラスラと私の事を誉めていく。
それを聞いたレイリーは時折「まぁ、愛されていらっしゃいますのね!素敵ですわぁ!」などと、うっとりとしながら相槌を打っている。
前回とやけに違う話の内容と、彼女の様子にこれは何かおかしいとユーリ様を見れば、彼女はなんだか楽しそうにレイリーの話に乗っている。でもその顔は…少し悪い…と言うか悪戯めいた笑みを浮かべている。
落ち着きを取り戻した私も交えてしばらく何故か私たち夫婦の馴れ初めを根掘り葉掘り聞かれて、その度に「素敵!素晴らしい!羨ましい」などと身悶えしながら羨ましがる彼女に、正直私は少し引いていた。
前回まで、ユーリ様にアプローチをしているようにしか見えなかった彼女が、今日は私達夫婦を褒めまくって羨ましがっているのだ。その顔は、間違いなく、恋する乙女の様相で…。
どうやらジェイドが企んでいる「レイリーに恋させる」と言うのは何かしら成功しているらしい。
「ところでレイリー?なんだかこの前より可愛くなった気がするよ?それになんだか花が飛んでいるようだけど、もしかして」
いい加減質問攻めにうんざりしたらしいユーリ様が話の方向を変える。
その瞬間、レイリーの顔がポッと赤くなり瞳が潤み出した。
「いえ、その、こんな事お話しするのもおかしいのかもしれませんが…そのっ…好きな方ができまして」
急にもじもじとしはじめ、伏し目がちになった彼女は落ち着かない様子で、カップの中にスプーンを入れるとクルクルと回し始めた。
留学先や外国の話をする時の堂々とした彼女の様子とは違いすぎて、私は唖然と彼女をみるしかできなかた。
「へぇ!レイリーにもついにねぇ!どんな人?」
私の驚き様とは打って変わって、ユーリ様は特に気にした様子もなくニコニコと質問していく。
ユーリ様の言葉に、レイリーがスプーンを回す手を止めて、恥じたように口を開く。
「年上の、逞しい方ですの」
年上?逞しい?
不意に頭の中にジェイドが浮かんでギュウと胸が締め付けられるように痛む。
「へぇ!どういった経緯で知り合ったの?」
そんな私の気持ちは他所にユーリ様は、興味深そうにレイリーに話の先を促す。
「あの、ジェイドお兄様からご紹介いただいて、夜会をご一緒するうちに…」
「ジェイドの紹介?」
予想していなかったレイリーの説明に私は首を傾ける。
「えぇ、戻ったのだから夜会でも出たらどうだとお声掛けいただいて…偶然一緒におられたお兄様のご友人の方がとても素敵な方で」
そう言って、どうやら件の彼を思い出したのか、レイリーがうっとりと宙を見つめる。
「へぇ、誰なんだい?君を射止めたそんな幸福な男は?」
流石の彼女の舞い上がり様に少し焦れたのだろう、ユーリ様が聞けば彼女はその名前を言うのすら恥ずかしいと言うように「はい、あの!エンドルム公爵家のディランさまなのですが」と頬を染めた。
「「え、ディラン!?」」
その意外な人間の名前に、私とユーリ様は同時に驚きの声を上げる。
すると、ハッとしたレイリーが急に立ち上がり、身を乗り出した。
「お二人とも知ってらっしゃいますのね!どうなのでしょう、私はあの方の好みのタイプなのでしょうか?」
ずいっと寄ってきた彼女の瞳は真剣そのもので、先程の舞い上がり方がうそのように、鬼気迫るような迫力があった。
そんな彼女に、私と流石のユーリ様もたじろいだ。どうやらユーリ様もジェイドの企みは知っていてもお相手までは知らされていなかったらしい。
「それは…わからないけど」
なんとか答えたユーリ様の言葉に、レイリーは力が抜けたようにヘナヘナと俯き加減に自身の椅子に腰を下ろした。
「そうですよね…失礼いたしました。でも…こんな気持ち初めてなんです」
そう言ってこちらを見た目は、今度は切なげに潤んでいる。なんだか感情の起伏が激しくて、正直私はついていけない。
「へぇ、そうなんだ。ところでお父上はそれはご存知なの?」
なんとか気を取り直しているユーリ様がどんどん話を進めてくれて、正直助かった。
「お父様は…恐れ多くも私を陛下の公妃にと思ってるみたいですけど、でも陛下にはアルマさまがいらっしゃるし。私は好きな方に嫁ぎたいです。だって出会ってしまったのですもの!」
そう熱っぽくまた語り始めるレイリーに
「そ、そうなんだぁ~」
ユーリ様もその先の言葉が出ない様子だった。
意外なことに驚きが隠せない。
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