憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「アルザバルドが!?」
聞き返した私の言葉に、ユーリ様は神妙に頷いて、視線をご両親に移す。
「実は」と口を開いたのは王太后陛下だった。
「アルザバルドの王族には私の妹が嫁いでいて…今回はその筋からの打診なの。今の国王陛下には王女しかいなくて、そろそろ婿を取る事を考えなければならない頃なのですって。そこでジェイドに白羽の矢が立ったのだけど…」
そう言って困ったように彼女は息を吐いた。
「もちろん、先に私宛に妹からそんな話が浮上しているという報告は来ていたから、話が大きくなる前にそれは無理だと伝えてあったの。でも、どうやら妹のその忠告を無視して話が進んでしまったらしくて」
「今日議会と、私宛に突然あちらからの親書が届いたんだよ。それでちょっと色々大騒ぎでさぁ」
ユーリ様は参ったと言うように額に手を当てて首を振る。
皆に紅茶を配り終えた、ジフロードが自身の席に腰を落ち着けた。
「議会の半分はこの話に乗るべきだと主張しているのです。アルザバルドと強固な繋がりが出来れば、貿易面は潤う。大きな国益になるというのがほとんどの主張です」
ジフロードの言葉に先王陛下が憂鬱気にため息を吐いて額を擦る。
「確かにいい話ではある。貿易面ではな…しかし王室としては大歓迎できない」
そう言ってこちらを見た先王陛下は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ユーリのお腹の子供が男であろうと、後継となる男児が一人では、今の流れでは公妃を娶る事は免れない。だから、今ジェイドをよそにやる事はできない。だがこれをどう上手く退けられるのかが問題だ」
先王陛下の言葉に私は理解出来ると頷く。
「議会の半数は賛成ですが、もう半分は反対もしくは保留なのです。特に殿下を擁する軍部の関係者は相当渋っています。殿下は軍事の要ですし、先の戦争での功績も大きい。他国にその情報が流れるのは良くないと」
ジフロードが次いで説明する。
貿易か国防か、そのどちらかの均衡でせめぎ合っているというのが今の議会の様相らしい。
「軍部の考えも然りだ。しかしどの程度それで押さえられるのか、今のところ何とも言えないところなんだ」
ユーリ様の言葉に私は頷く。
随分と難しい状況だ。何か一つ決定打となる代案や先方の国からいい条件が追加されればひっくり返りかねない。
「ところで今日ジェイド本人は?」
そう問えば、ユーリ様が困ったように肩をすくめる。
「視察で都を離れているんだ。夜には戻ってくるはずなんだけどね」
しかし彼がこれを聞いたら怒り狂うだろうね。
そうつけ加えたユーリ様の言葉に、皆でため息をこぼした。それは、想像に固くない。
結局、状況の整理と王太后陛下がもう一度妹君に掛け合ってみると言う事で話の決着はついた。先王ご夫妻がお帰りになり、ジフロードも帰宅の時間となったので、リビングには私とユーリ様が二人きりになった。

「アルマ、大丈夫?」
黙ってお茶を飲んでいるとユーリ様が気遣わし気に顔を覗き込んできたので、笑顔を作って応じる。
「ちょっと驚いて…一体どうなるのでしょうか?」
そう首を傾ければ、ユーリ様は慰めるように私の手を取った。
「なんとか回避するよ、だから安心して。だいたいまずジェイド本人が拒否するに決まっているんだから」
「でもジェイドの一存ではどうにもならないですよね?現にこうして本人のいない所で議論されている訳ですし…」
第3王子が嫌だと騒ごうと国益のためならばそんな事は関係ないのだ。それに
「ジェイドにとってもいい話しではありますよね?」
そう問えば、ユーリ様がぐっと押し黙る。
第3王子が婿とはいえ国王となる事ができるのだ、悪い話どころか、本来ならば大手を振って送り出すべき話でもあるのだ。
「でも…アルマはそれでいいの?」
静かにユーリ様に問われて私は首を横に振る。
「王妃としてではなく、私個人の感想では、そんなの嫌です」
キッパリと言い切る。どうあってもこれだけはハッキリと言わねばならない。
私の言葉に、ユーリ様が少し肩の力を抜いた。
「あぁ、良かった。好きなんだね、ジェイドの事」
その言葉に私はしっかりと頷く。本当は誰よりも先に、ジェイドに言おうと思っていたのだ。しかしこうなってしまったからには、変な意地や順序立てなど関係ない。私はジェイドが好きで、彼と共にユーリ様を生涯かけて支えていくのだ。だから彼を他国に取られるわけにはいかない。
私の反応に、「うん!」とユーリ様大きく頷かれた。
「ならば、なおさらこの話は断らなければならないね!でないと、あいつが浮かばれない!」
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